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フェイト・デストロイヤー フェイト・デストロイヤー ストラテジー 使用コスト:黒1無3 クイック あなたは中央ラインの中央エリアのスクエアにある対象のユニットを1枚選び、持ち主の墓地に置く。あなたは自分の墓地にあるユニットを2枚まで選び、持ち主の手札に加える。 「ラインハルト、何をためらうことがある?親に牙を向けてこその子、王に反逆してこその民さ。」~時空を歪める者シュレーゲル~ ユニットの除去と回収を同時に出来るストラテジー。 黄泉返りの呪法と比べ、以下のような利点・欠点が存在する。 双方の条件を満たせれば、かなりのアドバンテージを得られる。 プラン等からちらつかせる事で、相手の中央エリアへの進軍を躊躇わせる。 対象となるユニットが存在しなければプレイできず、立ち消えになった際、後半の効果は無効。 墓地にユニットの少ない序盤では、単なる除去カードにしかならない場合がある。 相手が中央ライン以外から攻めるタイプの場合、役に立たない。 収録セット ファースト・センチュリー エキスパンション 激戦をもたらす者(038/100 コモン) イラストレーター 金田榮路? 関連リンク(中心スクエア限定ストラテジー) 赤-勝利宣言 青-経済戦争 白-絶対魔法防壁 緑-弱肉強食の定め
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戦場における騎士同士の組み打ちは単に腕力があれば良いというものではない 膂力で決して劣らぬサーヴァントではあるが こうした近接での制圧術はそれ相応の術技を極めた者特有の機微がある 相手の膂力を封じる体位、死角―― 人間の関節駆動域に沿って相手の身体の自由を奪いつつ、徐々に捻じ伏せていく これが近接の組み打ちというものだ 障壁と、それをぶち抜く出力の鬩ぎ合いが主流となった今のミッド世界では ほとんど見られなくなった戦闘光景 だが彼女――烈火の将シグナムは元・忌わしき魔道書―― ロストロギア・闇の書の守護騎士だった者 数多の世界に転生し、渡り歩き、様々な戦場を体験してきた歴戦の騎士 当然、血みどろの取っ組み合い――組み打ちにて相手を引き倒し、相手の首級を掻っ切る戦場も数多く体験してきた まさに捻じ伏せるような、将の苛烈な攻めもまたこの守護騎士を形成する戦力の一つ 礼と儀を重んずる美麗な騎士の剣とは一線を画すものだが それは紛う事なき騎士のもう一つの側面 泥と屍を掻き分けて首の取り合いをする、戦場にて鍛えられた剣に他ならない その殺意の刃が翻り、今まさにライダーの首を刈ろうと跳ね上げられ―――、 ガチィン、ッ! ――甲高い金属音が場に響く それは朦朧とした意識の中―― それでも命を拾おうとする生者の最後の悪足掻き 防御の型もくそもない 右手から伸びた鎖を全面に晒し、それに左手を添え物にして がむしゃらに首を守るだけの受身―― 添えた左手に刃が深々と食い込み、燃え盛る刃に鮮血を滴らせ それがジュウ、と焦げ臭い焼けた鉄の匂いを充満させる そして文字通り、ライダーの首の皮一枚を隔てたところで―― レヴァンテインの決死の一撃は、止まっていたのだ (……) 更に険しくなる将の相貌 だが往生際が悪い、などとは思わない 無言のままに感嘆の意を表する女剣士 完全に決まったと思った一撃すら、こうして凌ぐ 一筋縄ではいかないのは分かっていたが、ここまで攻め込んでまだその命に届かない この敵もまた、あの槍兵と同様に強力な敵だ まともに戦っていれば想像を絶する苦戦を強いられていたのだろう 目の前の紫色の髪の女――その表情にはもはやほとんど力を感じない 度重なる斬撃と打撃で削られた肉体は所々露出し、傷だらけ 口の端からつ、―と、赤い筋が垂れ、言葉はおろかヒュ、ヒュー、と絶え絶えの吐息が漏れるのが精一杯の有様だ 「――私の首を……」 相手が、その口から微かに言葉を搾り出す 「私の、首を―――刎ね、る…?」 弱りきった女の、木にもたれたままの最後の抵抗 その声には紛う事ない恐怖の感情を映し出す 遠い昔の記憶―― 己が首を刈り、晒し者のように持ち歩くあの若き英雄の姿を幻視する彼女 ギリシャ神話に小賢しく名を残す、生涯を祝福に彩られたあの英雄 その懲悪譚の一説において若造の添え物とされた彼女は しまいには 「ゴルゴンの盾」 などという、最大級の屈辱を浴びせられながら―― 誰にも振り返られぬ悲しき生涯を終える事になる 「させて、なるものか――!」 何せ最終的にはモノ扱いだ あの若造の持つ宝具の一部としてのみ後世に名を残された、とある悪神の憤り―― 今起こっている恐怖はその時のトラウマ、、そして恐怖はほどなく怒りと変わり ここにきて女怪は初めて、その感情を吐き出すように声をあげる 「………無駄だ!」 「う、! ……ぬ、」 しかし気炎を上げて起こしたその身体は目の前の騎士にあっさりと組み伏せられ ぐいぐいと、もはや均衡の崩れた鍔迫り合いにて一気に押しつぶされる 何とかそれに拮抗させようとするライダーだったが、腕の力だけではどだい無理な話だ かち上げられ、伸び上がった騎兵の体勢では足の踏ん張りすら利かず、もはや潰されるのは時間の問題 強靭な腕力も、しなやかな両足も見る影も無い 自分の体ではないようだという比喩はこういうものかと実感せずにはいられない 間近に位置する互いの相貌 剣士の耳元に、女の苦しげな吐息がかかる 徐々に弱っていく生命――相手の身体から、残った力が少しずつ漏れていくのを感じる 命を絶つとはこういう事… その生々しい背徳感を背負って生きる覚悟があるからこそ騎士は剣を取って、戦場に駆ける 故に将は最後まで、微塵も力を緩めない もうすぐだ……もうあと数センチ押し込めば終わる これを振りぬけば、刃は相手の喉に深々と食い込み 頚椎を断ち切り、全てを終わらせる事だろう サーヴァントの顎下の間近に迫った高熱の刃が、じりじりと彼女の頬を、美しい顔を焼く それはかつて美の女神と謳われたサーヴァントにとって屈辱を超えた仕打ちに違いない 「ぁ、―――は、、ぁ…ッッッ」 文字通り神すら組み伏せるシグナムの攻めに能面のようだったサーヴァントの口から ようやっと―――搾り出すような苦悶の呻きが漏れた それは正しく断末魔と呼ばれるもの 最後まで騎士の剣に抗い続けた強靭な命が終わりを迎える悲痛な叫び 力は緩めない 微塵の容赦もしない 最後のその瞬間まで将はその剣先を淀ませる事は無い 「…………」 「…………ッッッ、」 「………念のためにもう一度聞く 投降する気は無いのだな?」 「…………っし、―――」 笑止な―――、と吐き捨てようとするライダーだったが 喉に詰まった血泡が彼女に声をあげる事を許さない 「……あると、言った、ら――― ここで、剣を引くと………言うのですか――? 貴方は、…」 それでもごぼ、と、無様に吐血しながら振り絞るように言葉を紡ぐライダーに対し 騎士は静かに―― 「貴様次第だ」 それだけを――告げた この剣のどこに助命の余地があるというのか――? 今更、泣き叫んで助けてくれと嘆願したところでこの刃が止まるとは到底思えない というか自分でなければとっくの昔に死んでいる 殺意の剣を間断なく振り回しながらの降伏勧告――笑い話にもならない まあもっとも―― 「それは―――、」 出来ません……、と消え入るような声で ライダーは騎士の申し出を切って捨てる ―――三下の悪役ではないのだ 四海にその名を轟かせた邪神 北欧の神話に最も強大な恐怖を振り撒いた者として名を残す そして今は曲がりなりにもサーヴァントとして現出したその身、 命乞いなど誰がしてやるものか――― その意地と誇りは騎士王や光の御子と比べても遜色ない 「英霊」 としてのものに他ならない 「そうか」 そしてその答えはシグナムにとっても予測済み 淡白な声でそれを受け取った将 残念だと思う余裕は彼女にはない こいつらは途方も無く強い 完全に死に体であり、自身の全出力を小さな武器で受け止めているこの相手 100㎏200kgでは効かない負荷を今も相手に与えているにも関わらず 瀕死の状態で、このしぶとさ――この力強さはどうだ? 手心を加えられる状況でも無いし、彼女を仕留めた後はあのランサーを抑え付けなくてはならない 故に、、 (悪く思うな……) 騎士は今、、出力の解放弁を―――全て開けた 攻撃に――相手を斬り伏せ、燃やし尽くす豪火のデバイス 魔剣・レヴァンティンにカートリッジを叩き込み、最後の一振りをここに下す その前に辛うじて立てていた防御など何の役にも立たない 最後の砦であった右手の鎖と左手を何なく吹き飛ばし――騎兵のサーヴァントの首を飛ばす その手応え その過程を 女剣士の両の瞳は余す事なく捕らえ、 そして断罪の刃は―――降り抜かれる 、、、、、、、、、、、、、、、、―――― 事が終わったはずの騎士の瞬き一つせぬ両目は――― その瞳の中に写るのは――― ホースのように吹き出した大量の血と共に跳ね上がった 彼女の凄惨な、生首――― 常人ならば目を背けてすら嗚咽に咽ぶ光景を、騎士はただ静かな面持ちで受け入れる 今まで切り結んでいた生命力を持った肉体が その瞬間に肉隗と化して、カクンとその場に崩れ落ち――地面に投げ出される 長く美しい髪を伴った「ソレ」が、無造作に地面に落ち―― ごろごろと転がって自分の足元に落ちる その見開かれた瞳が、怨と、恨の念を以って―― 物言わず、静かに、自分を見上げていた 、、、、、、、、、、、、、、、、―――― ………………… ………………… かつて飽きるほどに繰り返してきた工程だ―― その感触も、その光景も、むせぶような血の匂いも 自分には慣れ親しんだものに過ぎず―― 故に騎士は、その一秒先には訪れているであろう未来の情景を ここに幻視し――予め受け入れた もはやそれ以外の未来、それ以外の結末など無いのだし… 昔は持ち得なかった命を奪う罪悪感に対し、気構えくらいはしておきたかった ……………だけど、、 その幻視は、今思うと少し妙だった 違和感があったのだ いつも通りの光景で、いつものように凄惨で、 切り捨てた相手の、いつものように自分を怨嗟の篭った目で見上げる 「その瞳」 がそこにあって―― ああ、でもおかしいな……… 自分はこの 「相手の瞳」 を今、初めて目にしたような気がする たかが数合の打ち合いで勝負はあっさりと終わってしまったけれど―― 勝負をする時はいつだって相手の視線から目を逸らさない だから、前から相手の目なんてイヤになるほど見据えていた筈なのに――? 相手の女の右目――― その紫水晶の如き、妖艶な瞳の奥にある立体的なスクエア――― ああ…………そうか そういえば、この相手―――目隠しをしながら戦っていたのだった… ゆったりと、彼女の思考が今になってそんな事実に思い至る その両の目は眼前の女の、アイマスクのずれた、その中から覗く―― ――― キュベレイの魔眼の光を ――― 瞬きも忘れて見据えていたのだった ―――――― Lightning vs Lancer 2 ――― 第二ラウンド、と――槍兵のサーヴァントは言った だが初め、魔道士にそんなつもりは毛頭なく 彼女は他ならぬ最初の一撃で勝負を決めるつもりだったのだ だが、外した……仕留めそこなった ならば今ここで自分がすべき事は一つしかない 瞬の域で答えを出したフェイトテスタロッサハラオウンの行動は速かった 躊躇わずに敵の懐に飛び込み、先手必勝を期して攻め続ける 対して苦戦を余儀なくされるランサー 手傷を負った事を差し引いてなお セオリーを全く無視した相手の埒外の剣技にはっきりと戸惑い、防戦に追い込まれている あのシグナムを追い詰めた英霊を相手に優位を維持する快挙 雷迅はその降り注いだ一瞬にこそ最強の威力を秘めているのだ だが、、 落雷に被爆し、滅びる事を待つのみの者が 驚異的な粘りで雷雲が通り過ぎるまで凌ぐ事が出来た場合―― 陽光は雲を割って顔を出し、相手に生還の可能性を見出させてしまう 今、フェイトのラッシュに押し切られつつも渾身にて相手の斬撃を打ち返した槍兵 二人は改めて対峙し、互いの挙動に全神経を集中している その瞬時のやり取りにて――相手の微かな変調に気づきつつあるサーヴァント そうだ、、そもそも初撃からして妙だったのだ あの時、自分は完全に意表を付かれて意識の外からの攻撃を許してしまった 咄嗟に防御行動をとったが確実に一拍子は遅れた―― 故にあの場面、、相手が余程のヘボでもない限り、自分を討ち漏らす事などあり得ない しかしてその一撃はヘボどころか宝具クラスのそれだった 生還の可能性など測るも馬鹿馬鹿しいものであり、運がよかったで片付ける規模でもない なら―――何故自分は未だにここに立っている? 仕留められていた筈なのに、何故? (――――その答えが、アレか…) 合点がいった こうして改めて相手を見るとよく分かる 構え、重心、足の位置――― 初めの一撃から始まって彼女の打ち込みを受け続け……男は確信に至る ――― 肩を………壊しているのだ ――― この相手は既に深刻な損傷を受けている 恐らくはライダーとの戦いで負った傷だろう 明らかに反応の遅れた出来損ないの防御で 宝具級の一撃に対し、何とか残せた理由がこれだ 左肩を無意識に庇った大剣振り下ろし――それが僅かに真芯を外してしまっていたのだ 何と運の悪い…… 戦で負った傷とはいえ、それがなければこの勝負は既に終わっていただろうに―― (て、おい……ちょっと待て……) という事は何か? この目の前の女は今の今まで――ほとんど片手で自分を追い詰めているとそういう事か? あの凄まじい乱舞をほとんど片手でやってのけたという事なのか? 「あり得ねえ……どう考えてもおかしいぞ…」 既に次の攻防が始まろうとしていたにも関わらず 片腕の女にボッコボコにされている事実に思わず顔をしかめるランサー 俺ってこんなに弱かったか、、?などと首を傾げる男を前にして、 (怯むな……! ダメージはあるはず……なら今、行くんだ!!) 先の戦闘から引き続き、微塵の失速も見せずに今一度相手に飛び込むフェイト スタートダッシュからザンバーを叩き落すまで、ほとんどコマ落としの速度である こんなものをまともに捌ける者など星系を渡り歩いたとて何人いるか… 再び繰り返される雷神ラッシュ 烈火の将相手には不退で圧倒してきたランサーがじりじりと後退し 相手の剣をやっとの思いで受け続ける こちらに匹敵する速度で威力は向こうが格段に上 少しでも身体を浮かされればまた空中で良い様に弄ばれる これではたまらない、、ジリ貧もいいところだ 「くそがッ! このアマ……マジでどういう構造してやがる!?」 「押し切るんだバルディッシュ! 何としてもここでっ!」 Yes sir... もはや一方的と言っても良い展開 だが、この魔道士の心胆にそんな優位性など微塵も無い とにかくこの槍兵を早急に無力化したい彼女 肩の負傷を別にしても不安要素は――――多分にある… あのシグナムをも圧倒する相手 「それ」に気づかれる前に何としても押し切らなければならない 奇襲とはその一撃で相手の喉笛を噛み千切ぎるからこそ奇襲として完遂する もしそれを十全の力で受け止められてしまえば速攻をかけたこちらが逆に手痛いカウンターを貰うことになる 故に決戦兵器バルディッシュザンバーの一見、圧倒的に見えるその攻防は 実はフェイトの背水の気迫を映し出したものに他ならなかったのだ ―――――― 巨大な刃が縦横無尽に跳ね上がり、黒衣が目にも止まらぬ速度で翻る 視界に辛うじて残す金の髪が残影となって場を描く 猛攻は続く 実際の時間にすれば未だ一刻 されどその濃密に圧縮された攻防は千の挙動をゆうに超え 雷迅の鉄槌が次々に繰り出され、今もなお防御を固める槍兵に叩きつけられていた 一撃一撃ごとに火花が飛び散り、バチバチと放電した音が場に劈く 受身に回る槍兵の硬い門ごとこじ開けようとする、それは天空を支配する雷神の猛りそのものだ 「はぁぁあああッッッ!!!」 「――――、シィ!」 二人の裂昂の気合が苛烈な戦闘を彩ろうとするが 残念ながらその声は両者の動きにまるで付いていっていない 広々とした開けた林道が、この槍兵と魔道士にとってはキツキツの箱庭だ アスファルトの道路では飽き足らず、ガードレールを、断壁を足場に縦横無尽に駆け抜ける青と金色の閃光 ことに対峙は一瞬 距離が離れたと思った矢先、またも瞬時に踏み込んでくる魔道士 その金の魔力光はまるで流星の尾のようだ 常人には目で追う事も不可能な速度でランサーの懐を侵し、一気呵成に打ち込む姿は鬼気迫るものがあった 「たぁぁッ!! はッッ!! はあああっっっ!!!」 「―――、………、」 その蒼い肢体が一撃一撃ごとにズレる この男の戦績をして相手とまともに打ち合えない事態などほとんど記憶に無い 槍兵を叩き伏せるべく更に更に加速していく雷迅フェイト (後方に向かったシグナムはどうなったんだろう……) あのシグナムがあそこから取りこぼす事は考えにくい なのはと並んで詰めの苛烈さに定評のある騎士だ きっと心配は無い、、向こうはもう既に決着がついているかも知れない だがもし万が一………取り逃がしていたとしたら―― 後方にそびえ立つ森林――― 先ほどまで自分が味わっていた蟻地獄のような戦いを思い出し、、フェイトは顔を曇らせる あの森は巨大なクモの巣 あの恐ろしい女性はそこを縦横無尽に這い回る毒蜘蛛だ もし逃がせば―――烈火の将とて危ない…… 故に、、 (この人はここで……倒す!) 亀のように丸まって防戦に回るランサーを一気に突き崩すべく 雷の女神の猛攻が更に冴え渡るのだった ヴぁおん、ぎゃり、 バチバチ―――ゴゥ、 形容し難い打撃音と風切り音に、炸裂音、轟音、放電音が重なり もはや打楽器による何重奏かも分からないオーケストラが場に響く 鼓膜がおかしくなるような轟音を辺りに撒き散らしてクロスレンジで打ち合うフェイトとランサー いや―――打ち合うという表現は正確ではない 未だランサーはほとんど自分から手を出せず、フェイトに攻めさせるがままになっている 「――――、」 沈黙を守り続ける疾風の戦士 その胸中はいかばかりのものか 一見、速度と威力を兼ね備えたフェイトのザンバーフォームに手が出ないようにも見えるが…? (狙いは……武器だ、、武器を壊すか飛ばせれば私の勝ちだ!) 攻勢に出たら主導権を相手に戻さないのは基本中の基本 絶え間無く攻める魔道士に迷いや躊躇は一切ない そして堅固なる相手に今の今まで粘られてはいるが、相手に武器を失わせればノーリスクで近距離のバインドを使用できる それで取り押さえてしまえばこの戦闘は終了―――制圧完了だ これで問題は無い筈 勝利への図式を明確に頭に描いた執務官 打ち込まれるザンバーの巨大な刃渡りを凌ぎ、往なす男 自分と同じスピードで動き回れる相手と久しぶりに出会ったフェイトであるが ならば速度が同じなら単純な話―――デカくて、長くて、重い武器を持つ方が有利な事は自明の理 振り下ろされる金色の大剣に比べ、目の前に相対する槍は見た目いかにも頼り無く 軽量で、巨大武装に相対するには細過ぎる この圧倒的重量、質量、破壊力の差を生かさぬ手は無い 二十、三十発と打ち込めば、いずれ必ず相手の武器は朽ちるか 相手の両手が衝撃に耐えられずに武器を手放すのが必定 それが道理――それがセオリー この世にひしゃげ、壊れぬ武器などないのだ 対して瞬時に数十合を超える攻防の中―― 槍の合間から覗く男の両眼が、そんなフェイトをじっと見据えていた 幾多の剣と槍の鬩ぎ合いに隠れたその向こう 男の切れ長の瞳が射抜くようにこちらを凝視しており、、 攻めるフェイトの心胆を寒からしめる 「はぁっ!!」 「うおっと…!」 水平雷斬! そんな相手の視線ごと薙ぎ払うような一撃 男は再び潜ってかわす 間髪いれずに下段を払うザンバー 今度は跳躍してやり過ごす ならば次は斬り上げだ! 刃を返し、下から襲い来る巨大な稲妻の塊を男は身を捻ってかわす (もう少し……もう少しっ!) まるでサルを棒で追い掛け回す人の図だ 凄まじい身のこなしで、自分の攻撃を紙一重でやり過ごす相手を それでも卓越した反射速度で徐々に、徐々に追いつき、追い詰めていく魔道士 剣戟はなおも続く 驚くべきはフェイトの巨剣の扱い方だ この槍兵の見てきた超重武器の闘法のセオリーを虚仮にし倒す彼女の剣戟 右方に凪いだ巨剣が間髪入れずに左方へ戻ってくる あり得ない、、あの返しは無い、、 身体ごと振る大剣でこの挙動はあり得ない、、 まるでサーベルを振り回しているかのような軽やかな打ち込み だのに、その重さは巨剣のそれそのものだった ―――ランサーには知る由もない 面食らうのも当然なのだ 彼女―――フェイトテスタロッサハラオンはそもそも剣士などではなく、、 ――― 魔道士 ――― これに気づかず、己がセオリーで推し量ろうとする限り―― いかにランサーといえど敗北は免れない 防戦一方だった男の表情が、ここではっきりと変わる その緋色の目は今何を映し出すのか いつだって獰猛に煌き、殺気を灯った目で敵を射抜くその双眸 男の魔獣の瞳はただ静かに金髪の魔道士の奮戦を映し出し 対して、フェイトも真っ向からそれに相対する ギリギリと空間を鬩ぎ合う両者の気勢と刃は留まるところを知らず―― だが時を置かずして天秤がフェイトの方へと傾くのは時間の問題に思われた ランサー未だ攻めず そして攻めぬ者に勝ちは無い 神話に名を馳せた真紅の槍が今――雷光に飲み込まれようとする最中、、、 「お前さん―――左肩、イカれてるだろ」 「……!」 唐突に男が切ったカードにぎょっとする執務官だった 一瞬だが、息を飲み責め手を止めてしまうフェイト 内心の焦りの一端を突かれた事による、それは明らかな動揺 (やはり、、気づかれてたのか…) 不安要素の一 己がコンディションの推移 相手と斬り合う近接の間合いにて四肢の一端に傷を負っているという事実 出来れば相手に知られたくなかった、、 知られれば当然、敵はそこを突いてくる 魔力補助による肉体運用で成り立たせているミッド式魔法による戦術 たとえ左肩の筋肉がほとんど利かない状態だったとしても誤魔化せる技術を彼女は持っているが、、 今なお脊椎を競り上がってくるような激痛に耐え忍びながらの攻防 このレベルの相手を前にして、それがコンマ一秒の遅れに繋がった場合 攻守は簡単に逆転してしまう 故に知られる前に決めておきたかった 敵に攻め手を与えぬままに完封すれば負傷など関係ない だからこそ、本来の自分の距離を捨てての全力チャージであったのだが、、 「………は、ぁッッ!!!」 思案に埋もれる事、一秒弱 敵の思わぬ指摘によって膠着しかけた戦場を再び強引に動かすフェイト 巨剣を構えて突っ込む彼女の攻め手は変わらない 未だ敵に攻略の糸口を許したわけではないのだ ならば今、戦法を変える謂れは無い 負傷箇所を言い当てられたとて、それが戦力を引っくり返す要因にはもはやならない 相手だって苦しいはず、、苦しいからあんな事を言ってこちらの動揺を誘ったのだ 落城まであと僅かなのは間違いない――ここで突撃を止める馬鹿な司令官はいない! そんな攻め続けるフェイト ――――彼女自身は、、まだ気づかない その熱気を帯びた肌は、ほどなく掴む事になる勝利の凱歌ゆえのものか――― 全身を駆け巡るアドレナリンが加速に次ぐ加速を以って彼女の体内を駆け巡り だから今のフェイトに恐れや焦燥、躊躇の心は無い だが、それは妙ではないか…? この執務官は冷静沈着にして、常に冷徹な思考と判断の元に戦局を動かすタイプの魔道士だ ならばいかに攻め手に偏ろうと、ここまで向こう見ずな攻めを敢行し 興奮に身を窶した戦い方をするだろうか――? それは、、その心配は――果たして杞憂ではなかった 彼女の奮起は、いつしか心に抱いた焦りを隠すもの 攻め手が止まってしまうのを、脳内麻薬によって人為的に戦意を高揚させ 己が身を奮起させての苛烈な攻めであり、 いつしかその全身に立っている鳥肌を決して自分から見ぬように 歯を食い縛って攻め抜く、悲壮な姿に他ならなかったのである――― ―――――― そう、、 もうすぐ崩せる―― あと少しで落城―― そうやって、自身を奮い立たせ 自分は一体、何回この相手に打ち込んだのだろう? ――― 一撃必殺のつもりで磨いたこの刃を、何回打ち込んだのだろう…? ――― 振り回し続けたプラズマザンバー 「短期決戦」時に使用するフルドライブの刃は計算にしてあと数分は持つが これが減退の陰りを見せ、雷雲が引き、陽光に照らし消され始めた時――自分の敗北は動かぬものとなる そして先ほどから全身に感じる寒気は収まるどころかどんどんと増していき 今や猛烈に感じる不吉な予感と共に膨れ上がっている これだけ――これだけ攻めていて、一方的に打ち据えている筈なのに 一向に崩れない、削れている気がまるでしない相手 巨大な天にも届く壁に向かって打ち込んでいるかのような絶望感は徐々に膨れ上がっていく あるいはフェイトは初めから気づいていたのかも知れない…… 他ならぬ、近接では自分より格上の騎士であるシグナムに稽古をつけて貰っていたが故の感覚 相手が自分よりも幾段も上手であるという感覚に――― 「おい」 「……!!」 この人は――この相手は―― 「殺し合いはビビった方の負けだぜ?」 自分の近接技量で果たして打ち倒せる相手なのだろうか?という事に――― 巨大な刃を全霊で叩きつけるフェイトの顔に浮かんだ焦りは、もはや隠しようも無い 数分間、フルブーストで打ち続けた剣戟 魔力回路はレッドゾーン寸前にまで吹け上がり、これ以上の行使に歯止めをかけてくる だというのに、そこまで踏み込んで攻めたというのに… その両の手に響く手応えが次第に、次第に、強くなっていくのはどういうわけか…? それは言うに及ばず、己が剣が相手に与えているはずの衝撃が徐々に打ち返されているという事であり 機先を制していた自分の斬撃が一撃一撃、丁寧に確実に、受け往なされ始めている証拠だった (な……何て、人だ……) 人知を超えた強固な受け―――こんなのは、、こんな事がありえるのか? なのは達、高出力のフィールドによって生成された防御ではない バリアもフィールドも使わずにあんな細い槍一本で、フルドライブの刃を弾き返すというのか? 「―――らぁっ!!」 ここでカッと目を見開いたランサー 沈黙していた魔獣が目を覚ましたかの如く 完全防御姿勢のままに初めて自分から間合いを詰める 未だ間合いはフェイトに分がある 男を寄せ付けぬ巨大武装の深い懐を維持したまま 自身に決して打ち込ませない魔道士の剣の幕 だが、それを前にして爆ぜる男の感情は凄まじく まるで結界寸前の防波堤を必死に塞き止める感覚に似ていた しかしながら、あるいはそれは男の感情ではなく――― (無理もねえ――そろそろ限界みたいだからな 俺じゃなくて、こいつが――もう我慢出来ねえってよ) ―――彼の持つ呪いの魔槍のものだったのかも知れない 何せケンカを売られていたのはランサーではなくこの槍の方なのだ あの女は、この真紅の槍を容易く叩き折るつもりでいたらしいのだから その認識不測―――許し難い無礼を改めさせてやらねばなるまい それは致命的な 今の時点ではどうしようもない認識不足であった このフェイトにも、先に紫電一閃を防がれたシグナムにも―――知る術などなかったのだから 二人が 「こんな細い槍で…」 と断じたそれ 容易く破壊できると思ってやまなかったそれ 武器を壊せば投降させられると踏んだフェイトを嘲笑い 巨大な剣を受け止め、往なし、ビクともしないこの槍こそ―― ノーブルファンタズム――尊き幻想 ――― 宝具と呼ばれる神造兵器 ――― この世の理から外れた神秘の具現―― アーティファクトと呼ばれるものに他ならなかったのだ 幻想は幻想によってのみ塗りつぶされる 神器たる宝具は物理的な衝撃では破壊できない 単純な膂力で傷一つつける事は不可能 何故ならそれは文字通りの 「具現化した幻想」 であり この世から剥離された 「現象」 そのものであるからだ もし「幻想」を叩き折りたいのならば自身の繰り出す一撃に かの物を、その伝説ごと葬り去るほどの 「概念」 を込めなくてはならない より強大な幻想で塗り潰さねばその幻想を消す事は叶わないのである そんな事も知らずに、単にデカイから速いからと―― こちらを圧倒できる気でいた木偶の坊に そろそろ借りを返す時じゃないのか? なあ、クランの猛犬―― 槍がしきりに男に語りかけ、その獣性に火をくべようとする 「……………」 沈黙を守り続ける槍の魔人 相手の攻め手に対して今まで防御に徹するという男らしからぬ手際 迂闊に手を出せば自分とて打ち負けるとでも判断したのか この最速のサーヴァントが今の今まで先手を譲り続けたのだ 止まっていては槍兵の名が泣く―― まさにその通りだ その屈辱にもそろそろ耐え難くなって来ただろう? 正直、こちらはストレスで死にそうだ… 加えてあちらはおケガを召していて しかも、――――なぁ? 「……………」 何を躊躇う、クーフーリン? ああ、そろそろ――そろそろ、「いい」だろう? 亀のように縮こまってるのはもう沢山だ お前は最速のサーヴァント アイルランドの光の御子 そして我は呪いの魔槍――ゲイ・ボルグ! さあ、固まってるのも飽き飽きした! 珍しい剣を見せて貰った事だし散々やってくれた礼もある… ―――― 本物を見せてやれ ―――― 守勢にてフェイトのザンバーの猛撃を受けるランサーに語りかける声 それは男にしか届かず、フェイトの耳に入る事はない (…………!!) だが、魔道士には今、この槍兵の肢体が確かに…… ぐん、と巨大に膨れ上がっていくのを感じずにはいられない それは彼の纏う爆発的な闘気が醸し出した幻影のようなものなのだろう 百戦錬磨の執務官だからこそ、その変化を見て取れる 戦友の烈火の将を初め、自身を大きく見せるほどの闘気の持ち主に会うのは初めてではない ただ、それが今まで―― 今までの彼女のキャリアにおいて出会った、どんな相手よりも―――大きく強大なものであるという事実が、、 今もなお攻め続けるフェイトの口の中を、生唾も飲み込めないほどカラカラに干上がらせる この時、自身の意識を襲う嫌な感覚を彼女は認識せざるを得なかった 執務官として培った 「戦局を読む力」 が見せた皮肉 戦況が、形勢が、、スイッチを入れたようにカチリと―― 音を立てて変わった様な不吉な感覚に苛まれていたのだった 「くっ………はぁっ!!」 ブォン、と、風を切る音が斬撃の「後」に響く まともに受ければ地面ごと引っこ抜きかねない巨剣 そんな大剣の横一文字のフルスイングが英霊を襲う だが、、受けに徹し、我慢を重ね 満を持して一歩を踏み出した槍の魔人 その気勢も、内に溜め込んだ闘気も先ほどまでとは比べ物にならず まるでその痩身から溢れて漏れ出んばかりである いつ爆発するかも分からぬ時限爆弾を前にした時のような感覚を 必死に振り払うようにザンバーを振るうフェイト だが男はその豪快な一撃を苦もなく屈んで流し 通り過ぎていく剣の腹を――――今、槍で追い突いたのだ 「う、くっっ!?」 途端、今まで揺るぎようが無かったフェイトの体勢がグラリと上体から流れる 虚空を称えた瞳で、他愛の無い仕草で槍を振るったランサー その痩身に時を置かずして再び返し刃が降り注ぎ、―― 降り注ぎ、―― (……ぅ、、、) 唇を噛むフェイト 返し刃は―――来ない!? 斬り廻しのタイムラグがほとんど無い彼女の剣技を破る方法の一つがこれだ 返しが速いとはいえ、その一打一打がフルスイングである事に変わりは無い だからその身体全体で、全力で降り切った、もっとも力の流れる瞬間に 「新たな力」 を加えられたらどうなるか? そこには彼女の御し切れない膂力が発生し――コントロール出来ない力が生ずる それは相手の力を利用する「合気」とか「柔法」と呼ばれる技術であり 力で崩せぬ敵を、相手の力を利用して、そこに自分の力を加えて崩す達人業 「極めし者」であるこの男が、本来素手の技法である合気を武器でやった事に今更驚くでもないが むしろ信じられないのは挙動補助の魔法を駆使したフェイトの打ち込みに数分違わず合わせて来たという事だ 初速からマックススピードを計測し、予測も対応も困難な彼女の近接攻撃を 蝿でも叩くかのように……刃が通り過ぎた後を追うようにその槍で突いたのだ、、この男は! (見切られてるのか……こんなにも見事に…!) この短時間で己が戦技を早くも見切り始めた敵 やはりシグナムをあそこまで痛めつけたこの相手は恐ろしい手練だった (何とか……しないと…!) 感情を乗せぬ表情でこちらを見つめるその男 何を思い、考えているのかすらこちらに読ませてはくれない 戦局は徐々に押し戻されようとしている ここで――ここで押し返さねば……負ける! 苦楽を共にしたパートナーであるバルディッシュの柄を汗ばむ手でぎゅっと握り締め、、 フェイトは静かに、肺に酸素を送り込む 男の言葉を借りたくは無いが、ここは謂わば第二ラウンド中盤戦 気合で負けたら、気持ちで負けたら一気に持っていかれる 佇む二人が織り成す最速の戦いはいよいよ佳境を迎え―― じりじりとひりつく空気に戦意を称えて 雷光と魔犬は死界領域へと足を踏み入れるのであった ――――――
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N2/W32-109 カード名:先輩として フェイト カテゴリ:キャラクター 色:黄 レベル:1 コスト:1 トリガー:0 パワー:4500 ソウル:1 特徴:《魔法》?・《クローン》? 【自】 [手札を1枚控え室に置く] このカードが手札から舞台に置かれた時、あなたはコストを払ってよい。そうしたら、あなたは自分の山札を上から4枚まで見て、《魔法》?か《動物》?のキャラを1枚まで選んで相手に見せ、手札に加え、残りのカードを控え室に置く。 【起】 [あなたのキャラを2枚レストする] あなたは自分の、《魔法》?か《動物》?のキャラを1枚選び、そのターン中、パワーを+2500。 今いるのは私たちだけ… はやてが守りたい騎士たちは、今は、見てないから レアリティ:C 14/10/22 今日のカード
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四つの光が弾けて集う 金の稲妻と、紅蓮の炎と 蒼い疾風と、紫紺の怪異 とある事件を追ってこの地に降り立った機動6課ライトニング隊 その隊長と副隊長を突如、襲った怪人たち これに拮抗できる戦力は戦技教導隊のスペシャルフォースを除けば 同6課のスターズ隊のみ、とさえ言われていた そんな二人を圧倒する謎の敵―――サーヴァント 戦いは既に人の常識をゆうに超えて加速を続け どこまでも昇り積めていく四条の光―― 舞い踊る彼らがついに場に交錯する、その瞬間 四つの思考は刹那の刻を駆け巡って場に弾ける ―――――― 稲妻は遥かな高みにおいて紅蓮の光を見下ろしていた 天より降り注ぐ磊落な彼女にとってそれはいつもの光景なれど しかし彼女は今、眼下に友を置き去りにしてきてしまった悔恨に胸を焦がす 今からでは間に合わない 地上最高速を以って駆け抜ける雷光をして もはやそれを留める術など持ち得ない それを理解してなお――― シグナムッ……!!! あまりの突然の出来事に 目から滲む涙が溢れる暇すらなく 雷の鉄槌を構えし黒衣の女神が数秒後の友の死に慟哭し、 声の無い悲鳴を挙げる ―――――― 紅蓮の熱き魂が盟友を守るために 今、己が命を煌々と燃やす この窮地を招いたのは他ならぬ 我が炎が敵を焼き尽くせなかったが故の事 降りかかる火の粉も払えぬ烈火の何と小さく滑稽な―― 常勝無敗の女神と女将軍が知らずのうちに奢り高ぶり 敵を過小に見ていたというのか――? ならば許せ……戦の神よ そのツケを払うのに何も二人の命はいらぬだろう 炎は彼女が最も信頼を置く稲妻に全てを託し 死の刃を受ける事を覚悟する もはや是非も無し――言葉で飾る必要も見出せない 死を運ぶ蒼と紫の光を双方に迎え 紅蓮の炎は身体の一部となった二刀を構えて立つ ―――――― それは到底、思考の及ぶ一瞬ではなかっただろう それが一刻でも考える余地があったなら、このフェイトであれば助けられたはずだ 対象発見を認めて確保するのにかかる時間がコンマを上回る彼女 一瞬でも思考の及ぶ時間があるのなら――十分、行動を起こせたはずだ だがこれだけの思いが内で爆発していたにも関わらず 彼女はこの時、指一本動かせなかった だからそれはきっと刹那の瞬間 意識、時間が引き延ばされたように 何倍にもゆっくりとなって感じるというあれに違いない そして指をこまねいている者の眼前において起こるは 予定調和の如く何の意外性もない結果のみ 青と紫の閃光が中央で交差し 三つの膨大な力がぶつかり 金属が、魔力が、凌ぎを削り 切り裂かれる甲高い音が鳴り響く 「あ、ああ………」 フェイトのトリガーを持つ手が震える 左下方から襲い来る槍兵と右斜めから飛来する女怪の直撃をまともに受けたシグナム オーバードライブを用いる暇すらありはしない 烈火の将を……かけがえの無い戦友を救う、ありとあらゆる手段が閉鎖し 自分はこうして馬鹿みたいに上空から友達が串刺しになるのを見ている事しか出来なかった 勿論、その馬鹿に託された役割は一つ―― こうして彼女が命懸けで作ってくれた相手の致命的な隙を 自分は穿ち、突き崩す そのために装填した砲撃魔法 騎士が仕留められるのをこの目で見据えながらに紡ぎ出した三叉の豪槍 「……っ! ッ!!!」 滲む涙も、吐き出しそうになる嗚咽も飲み込んで 彼女は下方、光の交錯地点―― 三者の影が絡み合っている地点へ標準を合わせて叫ぼうと、、 Wait...Sir 「………!??」 ――叫ぼうとした魔道士を彼女のデバイスが寸での所で推し留めていた ハッと息を呑むフェイト 魔力と闘気が迸り、目を覆うほどの奔流を作り出していたその地点を直視出来ずにいた彼女にとって デバイスの喝破はその擦り切れた思考に今一度、火を灯すに十分なものだった 高度に位置する雲に覆われた彼女の視界が 上方から粉塵を掻き分け、三者の様子を見据えると―― それは確かに一見、中央の女騎士が串刺しになっているように見えただろう しかし、、 「ぬ、ううっ!!」 そこで悲しみと絶望にくすんでいたフェイトの目がはっきりと見開かれる 絡んだ影のうち、真っ先に躍動感を取り戻し状況を打ち砕いたのが他ならぬ―― 「シ、、シグナムっ!!」 ヴォルケンリッター・烈火の将シグナムであったから! 自身の呼吸すら止まっていた邂逅の折 潰れそうだったフェイトの心臓に今、ようやっとまともな酸素が送り込まれる その遥か眼下、トドメを刺しに行った二者――ランサーとライダーの体制が崩れる レヴァンティンの刀身でランサーの槍を、鞘でライダーの短剣を見事、同時に受けきり 女剣士はその場で駒のように回転して双方を弾き返す サーヴァントとて重力の縛りには完全には逃れられない 故にその身体はいつまでも宙空に鎮座してはいられない 人外の脚力で醸し出された突貫力の全てを受けられては、その身が落ちるは必定 「撃てッ!!!」 「はいっ! トライデントッ………スマッシャァァーーーッ!!」 将の怒号を受け 先ほどとは明らかに違う力強い仕草で指にかかったトリガーを引き放ち 中距離狙撃砲をぶっ放すフェイト 「「むう―――、!」」 それは当然、来るであろう反撃だ 頭上にて飛来する雷光を見据えて両サーヴァントが宙で身構える この時、バルディッシュに叩き込まれたカートリッジは三発 練りに練られた純正の魔力がフェイトの体内で凝縮され デバイスを通して増幅されて今、雷神の怒りの鉄槌となって吼え狂う 左手の甲にデバイスの柄を添えて掌から放たれた極太の砲撃は あの高町なのはのエクセリオンバスターと比べて些かの見劣りも無い 翳した手首から方円方に広がる魔法陣の中央からぶっ放されたそれが 左右に一本ずつ枝分かれし、一本はシグナムをすれすれに掠めて通り過ぎる そして一本がランサーを、また一本がライダーをそれぞれ滝のように飲み込んだのだ! 耳を劈く落雷の轟音にバチバチと感電を促す歪な矯音が重なり 場はさながら、子供の頃に話し聞かされたカミナリ様の大合唱の様相を呈す 両サーヴァントを巻き込んだ金の魔砲が暴れ狂って 人一人を飲み込んでなお失速せずに地面に向かい その寸前、三叉の魔力の左右が中央の一本――着弾点で結合し、一つの強大な砲撃と化す ああ、、それはまるで異なる配水管に流された水が 大元となる一本と合流し、巨大な水流となって貯水の渦に落ち込むような―― その集束した全ての威力を対象であるサーヴァント二体にまとめて叩きつけた巨大な砲撃が 地上に壮絶な爆雷となって降り注いだのである! さながら大地に突き立つ一本の柱――― フィールド全体に落雷独特の重低音が 次いで鼓膜を裂きかねない凄まじい爆音が鳴り響く そしてこの峠全体の地面をM6クラスの地震と同等の規模で揺り動かす フェイトの全開砲撃、、Sランク魔道士の全力―― 身の毛がよだつとはまさにこの事だ その天災の中央 巨大なクレーターを作り出した落雷の中心地点にて二つのヒト型が地表に叩きつけられ 10回ほどバウンドしながらそれぞれ地面を滑り――― ゴミのように投げ捨てられて場に落着していた 「…………ふ、」 それを見て苦笑とも取れる溜息を静かに漏らす女剣士 卓越した魔道士のコントロールによって自身の体スレスレを通り過ぎた砲撃 本来ならアレを自分も食らっていたと思うとゾッとしない… ボロ雑巾のように投げ出された敵の有様を見て、心胆が寒くなる彼女であった 「シグナム……! よく無事で……!」 「……………」 そしてその稲妻を撃ち放った主 フェイトが上空から彼女の隣に降りて来る 血相を変えて飛び込んでくる黒衣と金髪の魔道士 自分を心配する献身的な瞳には、目尻に滲んだ跡がある それが彼女にとって最も過酷な選択をさせてしまった事の証だという事は明らかだった 「何だ……? 今の腑抜けた攻撃は」 それを敢えて見ないように無視して 騎士は淡白に言い放つ 「す、すみません……一瞬、躊躇してしまって」 「いや、違う、、そうじゃない 敵のそれについてだ」 そう、それは受けた将が怪訝な思いを隠せない―― 相手と接触した時の事についてだった あれほどの強敵から同時に攻撃を受ければ いくら自分の騎士甲冑でも耐えられないはずだった どうにもならないと覚悟をしかと決めた瞬間であっただけに… 無傷で凌いだという事実を額面どおりに受け入れられないのだ 「対角線上の同士討ちを恐れたか…? にしても粗末に過ぎる」 「………」 確かに連携において味方同士が同一線軸上に位置すれば 互いを打ち抜いてしまうという最悪のミスを誘発する危険はある だがそれは素人同士の場合であり、熟練の者同士が犯す失敗ではない なのは&フェイトの黄金連携においても見れる、相手を挟み込んでの全力砲撃 その一撃で見事に敵を陥落させるシーンをミッドの武装局員の多くが教材として拝見したがるように 一定の技量を有した者たちであれば同士討ちの可能性など常に計算に入れた挙動を取っているのが普通だ それを踏まえた上で、やはり相手を挟み込んだ状態の優位性は絶対なのだ そこで詰めを誤るなど、、ましてやあれほどの力量を持つ者達が仕損じるなど有り得ない 「ともあれ手応えは十分だったけれど………倒したのでしょうか?」 「まだだ、、見ろ」 二人の眼下―― 地上においてのそりと起き上がる影が二つ 野生のカンか、優れた戦闘者の本能か 結果的に将と切り結んでいる状態から解放された槍兵と騎兵が 何とか最低限の受身が間に合っていたようである 互いに高い対魔力を誇る二人 そして皮肉にも不発に終わった宝具発動によって、収縮した魔力を共に叩き付けたがゆえに 魔力ダメージによる雷撃を軽減し、何とか現世にカタチを残せた…… 直撃ならば間違いなく二人とも消滅していただろう (……、、あの人たち…) そして今 フェイトが戦闘開始直後から抱いていた微かな違和感が―― 確信に変わろうとしていた ―――――― 「「―――、」」 人を超えたサーヴァントとは言え、あれだけの轟雷を受ければただでは済まない 先の自然干渉系の雷撃はいわば現象、災害のようなものだが 今の雷光は紛う事無く―――剣 敵を撃つために練り上げられた戦意と意思を持った刃 ケタが違うのは当然の事だ 地面に亀裂をつけるほどに叩きつけられたランサーとライダーがその体をゆっくりと起こす 重々しい挙動――深いダメージを負っている事は明らかだった 「ったく……いいザマだぜ」 男の重い口調は自己の損傷によるものだが 同時に何かに苛付いているようにも感じられた 「まったくです――これでは埒が明かない」 返される声も同様のものだ 全身を襲う感電のショックが、既に負っていた損傷に上乗せされ しかもまたも宝具不発――いい加減、愚痴の一つも言いたくなるというものだ ―― ここにおいてシグナムの抱いた疑念は実に正しい ―― あの瞬間 サーヴァント二体の凶刃は将の身体を狙ってはいなかった 毒牙はシグナムの眼前にて交錯し、彼女越しに迫る対面―― つまりは相方であるライダー、ランサーにそれぞれ狙い放たれており それを互いに防御するといった不可解な結果に終わっていたのだ シグナムはその見当違いの攻撃、 自ずとこちらの肉体を逸れた刃を叩き落したに過ぎない デバイスの手に残る感触の何と他愛ない事か トドメとして放たれた絶死の牙はその実 宝具による一撃ですらなかったのだ――― ―――――― 疾風が稲妻を穿つべく吹き荒れるその先に 彼は彼の求めた相手とそれを喰らおうと迫る怪物の姿を認める 貫き穿つはずの黒衣は天に舞い上がり 場に立ち塞がるは求めて止まなかった相手 しかしその立会いは彼の望んだ展望からはあまりにも懸け離れ 真紅の牙は刹那―――振るうべき相手を見失う 胎に溜め込んだ呪いの力は行き場を無くし 対峙するは紅と、紫 その奥から迫る紫紺の大蛇が好敵もろともに 自分を飲み込もうと巨大な顎を覗かせた 二度も俺に宝具を向けるか、――― そも………あれは自分の相手のはずだ 愛すべき敵は戦士にとって恋人も同じ 失った矛先は怒りと共に新たなる獲物を求めて猛り狂い 彼は紅蓮のその向こうの紫に向けて狂犬のような眼差しを向けた しかして迎え撃つ光は二つ かの牙の及ぶは個に対しての絶対的な殺傷であり 二兎を追うには及ばない 疾風は今一度、大いなる無念と共に その牙を仕舞わざるを得なかった ―――――― 紫紺の髪が翻り 空を切り裂いてその身を躍らせる怪異 我が身を焼いた無礼な炎を今、完膚なきまでに吹き消そうと 駆ける眼前で三つの光が弾けて飛んだ 彼女が殺意を以って求めて止まぬ紅い光は踏み止まってこちらへ相対 彼女が歪な好意で求めて止まぬ金の光が上空へと舞い上がる そして彼女が求めぬ蒼い光が今――殺気を以って彼女を刺した 彼女にとって英霊は元より怨敵 ソレに全開の殺意を向けられては反応せずにはいられない 何のつもりか――? その汚い槍が自分の心臓に向いている その汚い槍で自分の獲物を散々に傷つけてくれたようだ 照準の定まらぬ大砲 その全身を覆った強大な力を持て余した中で 彼女は無粋な横槍に激しい怒りを灯す 獲物を遮る壁二つ だが先にそれを排除すれば 其を抜いた上方にある雷纏いし金色の蝶には届くまい 自身の紅き命の水で描いた方円陣は今一度―― その行き場を失い、霧散するのだった ―――――― 「「――――、」」 かくしてあの瞬間 四つの光が至った思考が出揃ったわけだが……全く笑い話にもならない 二人の取った選択は結局、「保留」―― 意気揚々と飛び込んでいってこれでは、、あまりにも粗末な結果だろう 「槍術を極めた男にしては幼稚な誤爆ですね アイルランドの御子――早くもヤキが回りましたか」 「てめえこそ邪魔しやがって…何のつもりだライダー」 「貴方が先に間合いに入って来たのでしょう? あそこで互いに宝具を打ち合えば上空のフェイトに狙い打たれていた」 「…………」 なのはとフェイトの砲撃連携のようにいくわけが無い 彼らの切り札――宝具はあまりにも、、威力がありすぎて デバイスのような細かな調節も出来ない 唯一無二の尊き幻想は連射が効かず、連携するように作られてはいないのだ しかも放つ前後に膨大な隙が出来る つまりは手詰まり―― 目の前の敵を撃てば上空のフェイトに撃たれ フェイトに狙いを変えれば正面の敵に撃たれる かと言って踏み止まれば相方の宝具発動に撃たれる 彼らにとっては絶好の機会が一転、三竦みの檻に閉じ込められたような戦況に陥り フェイト、シグナムの運や機転も相まって 場はジャンケンでいうグー、チョキ、パーの出揃ったあいこのような状況に成り代わっていたのだ フェイトは友を見殺しにした薄情な選択を自ら責め苛むだろう だが、時に冷徹なまでの最善がか細い糸のような希望を手繰り寄せる事もある シグナムの重き覚悟と心胆、自身の命すら賭けて揺るがぬ合理的判断が 天秤が相手に傾ききるのを寸でのところで踏み止まらせた そして決して私情に崩れず己が役割に徹したフェイト この二人だからこそ――事態の好転は起こった もし魔道士が感情に任せて走っていれば、二人は諸共に宝具で焼き尽くされていただろう 互いに信頼していなければ為しえぬ二人の絆が、絶対の窮地を凌いだのだ 「ライダー……一つ聞いていいか?」 「―――、」 そして対するサーヴァントの両者に 彼女らと同じような信頼を求める事はないだろう 何故ならこの二人はもともと――― 「さっきのアレは俺も巻き込む気だったのか?」 「―――アレとは?」 「とぼけるんじゃねえ 一度目に森からすっ飛んで来た時の事だ」 「さて何のことやら――貴方など眼中にありませんでしたから」 「………」 敵を上方に迎えているというのに 今、立ち上がった両者の瞳に写るのは―― 「ライダー、お前は――俺の敵か?」 「何を馬鹿な事を…」 共に協力し、この窮地を脱する心など断じてない 「―――敵に決まっているでしょう?」 「………だよなぁ」 ただ互いの関係を、、 改めて認識する事になったのみ――― ―――――― 臍の横の深い傷から止め処なく溢れるモノを右手で押さえ 拭っても拭っても一向にそれは止まる気配さえ無い それでも烈火の将は剣を構える 敵が起き上がってくるのを眼下に見据えながら その口から漏れる軽い舌打ち 魔道士のあの砲撃を食らってなお立つ耐久力は見ていて嫌になるほどだ だが、いくら何でもダメージがゼロであるとは思えない ならばすぐさま追い打ちをするのがセオリーであるのだが―― 「シグナム……ひとまず待って下さい」 いつもなら迷い無く踏み込み一気に制圧するこの場面で 踏み込もうと追い足に力を篭める将に制止をかけるフェイト 「詰めの好機、、奴らの体勢が整ってからでは遅い せっかくのお前の砲撃が無駄になってしまうぞ? それとも……何か考えがあるのか?」 「それは私達も同じです こちらのダメージも重い…今、闇雲に攻めても攻め切れずに 先の二の舞になる可能性が高いと思います」 降って湧いたようなチャンスにおいそれと飛びついて それでどうにかなる相手で無いのは疑いようも無い事実だ さっきはそれであわや敗死の憂き目にあった パートナーの片方が死に掛けたのだから 今は平静を装っているフェイトが慎重になるのも当然である だが、どうする―――? このまま馬鹿みたいに指をくわえて待っていて 敵を立ち直らせてしまっては元も子もない ここは一刻も早く攻勢に出ねばならない場面なのだ 「コンビネーション」 「?」 思案に耽る事、一秒―― 眉をしかめて一瞬考え込む仕草をしたフェイトが 現状を打破すべくぽつりと呟いた一言がこれだった 「敵は非常に強力で危険な相手です 悔しいけれど一対一でまるでアドバンテージを取れない以上 1on1は一度封印して常に二人で仕掛けるべきです」 一対一ではアドバンテージを奪えない―― 言い放つフェイトの言葉に内心、複雑な表情を見せるシグナムである 屈辱的な意見だ ―― 一騎打ちでベルカの騎士に負けは無い ―― そう称されるほどに彼女らヴォルケンリッターは白兵戦に絶対の自信を持っている あの高町なのはでさえ、封鎖領域のドッグファイトでは6:4でシグナム相手に分が悪いほどだ それがこの体たらく…… 裂けたBJから露出した肉体に数々の裂傷や腫れを覗かせる二人 相棒にこの言葉を吐かせてしまったのも納得であろう 赤く腫れ上がった口元を拭う この剣にて守るべき隊長、フェイトテスタロッサの全身に無数に刻まれた蹂躙の跡 手にも足にも胴にも、そして顔にも傷が覗き 西洋人形のように整った容姿に痛々しい痣が残っている 己が目の届く内にありながら 友をこれほどまでに傷つけさせてしまったという事実を前にして自身の誇りなど小さな事だ 今はそんなものを封印し、事態の打開に当たるべきだろう 「だがそれでは一対一が二対二になっただけだぞ 数の有利が働くわけでもあるまい?」 「それなんですが……気に掛かる事があるんです」 フェイトが敵から視線を外さずに、 「…………彼らは本当に味方同士なんでしょうか?」 「何だと?」 内に抱いた疑問を口にする 目を白黒させる騎士 「馬鹿な……共にこちらに攻撃を仕掛けてきたのだぞ? それが味方同士でないなら何だ?」 「確かに二人とも私達の敵である事は間違いありません ですが、それが=味方同士であるとは限らない 利害の一致か、状況によって仕方なく手を組んでいるか…… そういう成り行きで組まされてしまう事は珍しい事じゃない、、」 「……」 確かに敵の内情によってそういう事もあるだろうが―― フェイトの横顔を改めて見守るシグナム どう考えてもその理論は唐突過ぎる様に見受けられるが 彼女の瞳には少しも臆したところはなく、冷静な司令官の顔が戻っている 「さっきの敵の連携の乱れでそう思ったのか? あれだけで判断するのは性急過ぎないか…?」 「それだけではありません 実は初めから……違和感を感じていたんです」 そう――初めから彼らはどこかおかしかった 轡を並べて現れた謎の怪人 だが険悪な空気というのは黙っていても滲み出てくるもの 当然、フェイト達には知る由もないが 目の前の相手は元は本来、命を削って殺しあう者同士 信頼や友好的な空気などを醸し出せる筈が無い それを、詳細は分からずとも彼女はずっと不思議に思っていた――― 執務官は戦闘において前線の兵士を統括し指揮する立場にある 当然、敵と真っ向からぶつかるだけでは被害が大きすぎて話にならない 故に人的損害を最小限にすべく、自ずと人を、戦況を、 場に渦巻く人の感情を読む能力に長けてくる 「あの二人……目を合わさないんです」 そのフェイトの洞察眼が捕らえた 敵の二人の間に渦巻く感情 目を合わせない―― 他の者が言ったのならば、そんな瑣末な事でと笑うところだが 他ならぬフェイトテスタロッサの言葉である この思慮深い執務官が何の確信も無い事を口に出すはずが無い 初めから言葉を交わしていながらあの二人はずっと目を合わそうともしなかった 野生動物が、目が合った瞬間に喧嘩が始まるが故に互いの目をおいそれとは見ないように ―――どこか壁を作っていた 「そして戦闘開始直後、すぐにこちらを分断して一騎打ちに持ち込んできた 当然、自分達の戦力に絶対の自信を持っての事でしょうけど、、」 一騎打ちでは負けないという自身の元にこちらを分断し、各個撃破しようと企む それ自体はいい、、間違った戦術ではない だが―――本当にそれだけであろうか? 単騎の戦闘に自信があるのではなく 単独で行動したい理由があるのだとしたら? 轡を並べて戦う事に何らかの抵抗を感じているのだとしたら? 先ほどこちらのチェンジに対応できず 一時は完全にペースを明け渡した事を見ても分かる 四者が集ったあの場にて、敵は互いをフォローしようとする動きさえなかった それどころか森から飛び出してきた自分らを見て明らかに強張った槍兵の様相を鑑みれば―― 微かにだがそこには確実に、混戦を嫌う感情が見え隠れしているのが分かる 「しかしな……初めに奴らが自転車に乗ってきたのはどう説明する? 仲の悪い者同士がああやって相乗りなどするものなのか…?」 「わ、私も……それは最後まで引っかかっていたんですが、、」 歴戦の貫禄を伴っていたフェイトの口元が少し引きつる 自身の理論を詰め切れない居心地の悪さを感じてしまう魔道士 こめかみに垂れる一筋の冷や汗――若干、弱気になりつつある瞳 あれだけが、、あれだけがどうしても説明出来ないのだ… 「………分かった」 しかし場に100%の理論などは無い 元より手詰まりのこの状況 こちらから動かねば話にならず、動くならば早い方が良い 「元よりこの剣はお前に預けた身だ ライトニング2……隊長の指示に従おう」 「シグナム……ありがとうございます…」 信頼する友の出した答えに乗るのに何の不満があろうか ここは歴戦の執務官の観察眼と勘に全額賭けてみよう 「お前と肩を並べて戦うのは久しぶりだな 初期パターンはいつも通りで構わんか?」 「はい……ただし、くれぐれも気をつけて 初めは踏み込みすぎず、徐々にペースを上げて行きましょう」 「了解だ」 言ったが早いか―― 開けた視界にて今、空を取ったライトニング隊が左右に分かれ 見下ろすサーヴァントを中心に旋回を始める 中盤戦、第二幕――― 数々の苦戦に見舞われながらも今 空戦魔道士の本領を発揮出来る空にてサーヴァントと相対する二人 軋む肉体に鞭打って 滲む脂汗もそのままに 荒ぐ呼吸を整えながら 再び開かれる殺劇の宴に身を投じる――フェイトとシグナム ―――――― 「……面倒くせえ事になったぜ」 人知を超えた存在であるサーヴァントに対し 曲がりなりにも優位に立てるものがいるとするならば それは羽を有している者だろう ―――飛べる 当たり前過ぎる事だが空の優位性 敵の頭上を取れるという事の恩恵は計り知れず 高速で凄まじい膂力を振り回してくる彼らを相手にした場合 それは限界領域での攻防にそこはかとなく生きてくる 勿論、ただ宙に浮いているのではダメだ それでは叩き落とされるハエと変わらない あくまで空での戦闘を「モノにしている」事が絶対条件 ―― 即ち、「空戦」が出来るという事 ―― 当然、ランサーもライダーもあの敵を宙に上げる事のやっかいさは身に染みている だからこそ数々の予防線を張って彼女らを飛ばせないようにしてきたのだが… その行い空しく今、ミッド随一とも噂されるライトニング隊を中空に見上げる形となってしまったのだ 両翼に展開するように飛び こちらを挟み込みつつ機会を疑う剣士と魔道士 ―――術がないわけではない 羽持つ幻想種すら地に堕としてきた英霊達 対抗する術は十分に持ち合わせているのだが、 さて、、あの二人に対抗すべく宝具を全開にしてしまっても良いものか それをしてしまい 隣に侍る 「本当の敵」 に決定的な隙を晒してしまって、、 ――― 本当に良いものか…? ――― 高速で左右に分かれる敵が徐々にその輪を狭めてくる 今にも飛び掛って来ようと構える猛禽がニ匹 もはや秒の暇もなく戦闘は再開される こちらの損傷もまた決して軽くは無い これで動けなくなるほどサーヴァントはヤワではないが、 だが―――不安を抱えたままでは満足な戦闘は行えない 「――――、」 山なりに緩急をつけて距離を測るライトニング隊 ソレに対し迎え撃とうと鎖剣を構えるライダー 「っ、ぐ――!?」 その彼女の腕に突然―――衝撃が走った 予想だにしないところから来た、攻撃? 隣の男の紅い槍の穂先が ライダーの二の腕に思いっきり叩きつけられていたのだ 後ずさりする騎兵 効いたというより驚いて、その場につんのめる 「―――何のつもりですランサー」 「てめえはもういい………引っ込んでな やはり信頼の置けぬ相手に背中を預けられねえ」 肩を並べる味方 (味方ではないのだが) の突然の申し出 暫くポカンとなった後、嘲りの視線を返す女怪である 「彼女達を一人で相手にすると? 音に聞こえしその槍とて、荷が勝ちすぎると思いますが」 「邪魔だから消えろと言っている あまり俺に近づくと一緒に殺しちまうかも知れないぜ?」 外堀を埋め尽くす万の敵よりも天守に押し入った一人の刺客の方が遥かにタチが悪い 改めて敵を望むこの局面―― ランサーの下した決断がこれだった 「近づくなとはご挨拶ですね 私の背中にべったりと張り付いていた者の言葉とは思えない」 「おかげで安物のハブ酒みてえな匂いが染み付いて取れねえ…どうしてくれる?」 「――――安心するといい 洗っていない犬の匂いしかしませんから、貴方は」 両者は思い出したかのように氷のような殺気を共にぶつける まるであの冬木の地で遭遇した時のように、、 今、それを向けるは違う相手だというのにどうしても心情的に割り切れない 彼らは聖杯戦争のサーヴァントなのだから―― 「―――いいでしょう……私は私で好きに動かせてもらう 死ぬのは構いませんが、せいぜいサーヴァントの名に泥を塗らないように」 「名、だぁ? 英雄みてえな口利いてんじゃねえよ化け物が ―――さっさと行きな」 「ふん……」 槍兵と騎兵、まさかの決別 短い会話がほどなく終わるのと 戦況が動き出すのが―――同時だった! 「おおおおあぁぁあっっ!!!」 吼え狂う烈火が円を描く軌道から一転 高速で上空より飛来した瞬間、 「ハッハァ!!!」 男が槍を翻してそれに答える 再び待ち望んだ瞬間に歓喜に震える騎士と槍兵 空を舞う猛禽と地を駆ける猛獣が再び相対し殺しあう そして騎兵は爆ぜるように後方へと飛び荒び―― 再び、森の中へと消えていったのだった ――――――
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相手の減速にまるで示し合わせたかのように 黒いスカートで覆われた腰がサドルから浮き 身を乗り出して重心をぐんと前に倒し、、 その非力な二輪車は――― 峠を駆け下りる流星となった 「な、、なに…!?」 サイドミラーを見ながら飛び出すタイミングを見計らっていたシグナムが歯を食い縛って唸る 一旦は突き放したかに見えた相手が、恐るべき速さで追い上げてくる それは競輪選手がスパートをかける時の立ち漕ぎに相違なく 自転車は人力であり、エンジンに当たる部分がその両足であるのなら、、 彼女の両足に潜む力はもはや地球上に現存するあらゆる生物を凌駕しかねない もっともこんな漕ぎ方を女性が、しかもタイトなミニスカートで ぎりぎり腰上を覆ったような格好の女性が間違ってもするべきではない 何故なら、、 「おい、中が見えてんぞ中が」 「所かまわず発情するとは、貴方の二つ名は伊達ではないという事ですか」 「抜かせ……誰が貴様の尻など好んで見るか」 倫理的に男性にとって 目のやり場に困る光景が展開される事になるからだ もっともこの女性の正体を知れば、そんな恐ろしいモノに 劣情を催せる男など数えるほどもいないであろうが、、 ともあれ勾配のきつい下りをまさに自殺行為としか思えない勢いで下っていく自転車 加速による暴風はもはや台風クラスであろう そんな中、平然と談話している相手の様はもう冗談としか思えない光景だった 「こんのヤローー!!!」 先ほど槍を突き入れられ、穴の開いたクルマのボディから 上半身を覗かせたのは小人の少女、アギト 融合デバイスでありながら、自身も炎系の魔法の使い手である彼女 その手に得意の炎弾を具現させ、、 今、眼前に迫る怪人にぶちまけたのだ 迫りくる火の玉の雨あられ まるで数百発のロケット花火を同時に打ち込んだかのような凄まじい弾幕が二輪を駆るライダーを襲う だが、、、 どれほど豪壮であろうと、たかが花火で自らの愛馬を駆る騎兵を止められる筈がない まるで炎弾の間と間を縫うように、その頼りない車体が 右へ左へとあり得ない挙動をアスファルトに刻み その炎熱の道を掻い潜ってくる 「このサーカス野郎!! 来るんじゃねぇ! 止まれぇぇぇ!!!」 剣の精が絶叫交じりに手を振りかぶり お次に出したのは、その狭い道一杯に広がる炎の壁 真紅のカーテンを思わせるその灼熱の防壁が 後方より猛追する化け物ライダーの進行を阻もうとする が、、並の炎などこのサーヴァントの女性を そして後部に座す槍兵の体を焼く事などかなわない アギト渾身の燃え盛る壁はまるで障子を突き破るかの如く 炎の中に何の躊躇いもなく直進したライダーが その壁を突き破って、何事もなかったように追走を続ける 「信じられねえ……何だよあのチャリ、、 実は高性能デバイスってオチじゃねえだろうな……」 「もしそうならシャーリーに持って帰ってあげれば喜びそうですね」 「やめろ、、何とかにハサミだ」 相手のあまりの非常識っぷりに もはやげんなりするしか無い三者 しかしながら、追われているのは自分たちだ ことにハンドルを握るフェイトは、同時に隣にいる二人の命運も握っている 冗談では済まされない U字の形をしたきついコーナーにさしかかり フルブレーキをかけるフェイトの車体がグリップの限界を超えて横に傾く 「くっ!?」 限界を超えてしまった車体を制御しようと逆ハンドルを切るフェイト 空戦の姿勢制御では一級品の彼女であるが フェイトは当然、モーターレース等で活躍するプロのドライバーではない 自身とは比べるべくも無い鈍重で重い車をそこまで完全に支配するスキルはなかった そんな黒い車体が身の毛もよだつスキール音と共にボディを泳がせるコーナーに 何とノーブレーキで突っ込んでくる、火の玉と化した二輪車 ギャリギャリ、とチェーンが軋む音が響き その細いタイヤからはレーシングカーのそれのように火花が飛び散っている 「―――往きますよ、、参号」 それは眼帯の女から 己が手綱を任せる貧弱な機体に向けての言葉 静かながら、騎兵としての誇りを乗せた言葉と共に、、、 二輪の操車、サーヴァント=ライダーは 黒い車体に体当たりするかの如き速度でコーナーに突っ込んだのだった ―――――― 腰下までかかる紫紺の髪が凄まじい向かい風に煽られ それ自体が独立した生き物であるかのように空に踊る そしてネコ科の獣が全身のバネを総動員する時に取る猫背の姿勢に酷似した姿で 眼帯の女は両の手のグリップを捻じ切らんばかりに握り締め、足下のペダルを蹴りつける 光差さぬ林道を弾丸のように駆け抜けるその姿は まるで一匹の神獣が疾走してくるような桁違いの迫力を以って ライトニングの二人に迫っていた 理論上、二輪は四輪にはコーナーインのスピードでは絶対に勝てないと言われている 何故ならば四つのタイヤを使ってそのボディを支える四輪に対し 二つのタイヤしか使えない二輪は地面に対するグリップが圧倒的に少なく、アドバンテージを稼げないからだ だがその不利を覆す、二輪のライダーならではのコーナリング技術がモータースポーツには存在する それが自由度の高い二輪ならではの ライダー自身の体重すら利用した荷重移動――ハングオンである あろう事か、明らかに二つのタイヤのグリップを超えるスピード というか全くの減速無しでコーナーに突っ込んだ騎兵 横滑りする二つのタイヤ 制御を失い、吹き飛ばんとするその車体を 女は地面に押さえつけるかのように車体を倒し 凄まじい角度でのコーナリングを敢行する ほとんど地面と平行になる体 アスファルトスレスレに傾くほどのハングオン 何とその剥き出しの肘と膝を地面に擦り付けてのライディングは 道路に黒と赤のベルトのような軌跡を刻んでいく 黒はタイヤの削れた跡 赤はライダーの右半身の 削られたヒジとヒザから付着した血肉そのもの この速度だ 彼女の肉体は公式のスポーツのように分厚いパッドの保護など受けてはいない 地面に擦り付けられるその白い肘、膝が大根おろしのように肉や皮をこそぎ取られ 程なくして骨にまで達するような重症となるのは明白だった で、ありながら それでも女の繰る自転車は確実に 先に侵入した相手の車にみるみる迫っていく そうだ――彼女は騎兵 あらゆる騎馬を使役し、誰よりも早く世界を駆け抜けるもの 相手が何人であろうとも、自分の前を走らせるわけにはいかないのだ 自転車の操車のただでさえ表情の読めない 目隠しで隠れたその相貌に今、 「、ふッ!――――」 確実に力が篭る 右半身のヒジ、ヒザは地面を噛み、ダウンフォースを稼ぐのに使用 そして空いた左半身が今、横滑りする車体を前に押し出すエンジンの役割を果たす 女の口元がギリっと歪み、牙を含んだその歯を食い縛る音は 車体が風を切る音に寸断されて消える 地に擦り付けられている右の手足とは逆の足 それが今唯一、操車が自由になる箇所だった だからといって常人ならば、右側から叩きつけるように襲い来るGの影響で 余った部分は車体から飛ばされないようにするのが精一杯のはず だからその左足を自在に使いこなし 左足のみのペダルワークで、まるで電車や機関車の車輪を回す骨格の如き速度で ホイールを回転させていく姿はもはや曲乗りの域 超高速で回転するチェーン それによってぐんぐんと前に押し出されていく車体 人間の常識では有り得ないライディングによって 尾を引いた流星の如き暴力的な速さでコーナーを駆け抜ける自転車が フェイトの繰るクーペに迫る 重量など今更比べるまでも無い フェイトのクルマは3~4トン以上 ライダーの自転車は後部座席の槍を担いだお荷物を含めても100キロ前後だ 軽量、馬力、コーナリングフォースを全て得た騎兵の乗る自転車が 今や再び重厚な黒いボディを追い立て、並走する羽目になったのも当然の結果だった 「こ、これ以上は……!」 「くそ、、」 フェイトが歯噛みし、シグナムが舌打ちしながら今一度、剣を構える コーナリング最中にてサイドバイサイドで並ぶ両者 互いに凄まじいGが肉体にかかる最中 その自転車の後部席に座す男が再び槍を構えた 苛烈なライディングの中、男の両手は常に長物によって塞がっている そう、、今までこの男は両足の力だけで踏み場部分を挟み込み 車上でのバランスを完璧にとっていたのだ そしてそれは今現在、車体が地面とほぼ平行に傾いている最中でも同じ事 両腿にてガッチリと後部席に固定された体は決してその暴れ馬から振り落とされる事はなく それどころか、男はハングオン最中でありながら身を乗り出し半立ち状態になる 未舗装の峠の道路の中、跳ねる車体の上で しかもコーナリング最中でありながら、まるでぶれずに 真紅の魔槍を手に持ち、右中段に構えて見せたのだ 赤い光沢を称える槍よりもなお紅い 男の双眸がギラリと光る そして、、 カーブに手間取るフェイトの車を完全に抜き去るライダーの「参号」 その追い抜き様に――― ランサーが、構えた槍を車の後輪に渾身の力でブチ込んだのだ 「う、、あっ!?」 自らの愛車に起きた異変 それが取り返しのつかないものである事をステアリングを握るフェイトに分からぬ筈がない 右下半身が一瞬浮き上がり――そして地に叩きつける感触に顔を青くする魔道士 彼女の脳裏を過ぎった光景の通り、車の右後輪はあえなくバースト 否、その男の突きの威力はホイールを難なく木っ端微塵にするほどのものだった 黒いボディが大きく傾く コーナリング最中にリアのグリップを失えばクルマがどうなるかなど今更言うまでもない 荷重の抜けた車体後部があえなく空転し――その狭いカーブで時計回りに一回転 盛大にスピンした車体を立て直す術はもはや無く フェイトとシグナムを乗せた黒いボディがガードレールに激突 静寂の支配する森に、凄まじいクラッシュ音が鳴り響く 「ああっっ!!?」 車内に走る衝撃と振動は凄まじく、二人と一体の身体を上下左右へと叩きつける もはやシートベルトなど何の役にも立たない 短い悲鳴を上げるフェイトを嘲笑いながら、その手を拱くは死神か―― 3トンを超える鉄の塊はガードレールを巻き込み それを容易く突き破り―― 漆黒の渓谷へとダイブ 遥か崖下へと転落していったのだった ―――――― アスファルトに帯のように刻み込まれた焦げ臭い跡 黒い飛沫、そして内溶液が飛び散り オイルの独特の匂いが鼻につく 一般の自動車を最悪の事故から守るために設けられた長いガードレールは今、無残にひしゃげ 真ん中からその過度の負荷に耐えられずに捻り千切れている この光景――狭い山道の中腹で 大惨事に繋がる事故が起こった事を容易に想像させる 後続の玉突きが起こらないのは不幸中の幸いか そう、後続の車など来る筈がない 何故ならここは彼らが踊るための彼らだけの舞台 セカイはその他一切の生物の存在を認めてはいないのだから 一体誰が、誰のために用意した演出なのか 渦中の者達にそれを理解する術はない ともあれ、時間にして実に数分弱―― 電光石火のカーチェイスはこうして幕を閉じる 奈落に落ちていったダークメタリックのクーペ そのボディはグシャグシャに潰れ、立派なフォルムを誇る大排気量のスポーツカーは見る影もない有様となっているだろう 最もバトルを制した方も無事ではなかった 操車である紫の女性の乗っていた自転車は今 サドルも、ベダルも、ハンドルも、チェーンも、一所には無い 最後のコーナリング 相手のクルマを崖に叩き落してほどなく、、 限界を超えたライディングに耐えられなった二万円弱の汎用自転車はまず前輪、後輪共にバースト 宙に吹き飛んだ車体がフレームを残し、焼き切れ、捻じ切れ、ひしゃげ―― 文字通りの空中分解を起こし、乗車していた二人を上空へと投げ出していたのだ あんな速度で、しかも横Gの多分にかかった状態で空へと飛ばされたのだ 操車とも間違いなく地面か周囲の木にに叩きつけられ、または崖に投げ出されて即死だろう こんな大クラッシュから生還出来るわけが無い そんな芸当をかませる人間などこの世にいるわけがない ―――ズシャリ、 だからこそ、、 このような陰惨な大事故の渦中にあって 何事もなかったかのように地面に佇むこの二人こそ―― 正真正銘、人間を超えた存在であったのだ 実際、この両者はヒトと比べるのもおこがましい存在 とある儀式によって現世に呼び出された一つの奇跡の体現 地上にその形を成した英霊、、サーヴァントと呼ばれる人外の存在である 髪も衣装も深い紫に全身を覆われた美しく妖艶な女性 先ほどまで絶技を繰り、二輪を駆っていたのが 騎兵のクラスに召還されたサーヴァント=ライダー 装飾の無い、質素な蒼いボディスーツにその身を包み 目を引かずにはいられない、紅い不吉なオーラ漂う一振りの槍を携えた男が 槍兵のクラスにその身を置くサーヴァント=ランサー いずれも、地球の伝承にその名を連ねる 伝説上の存在――具現した神秘そのものである 「…………あの一撃目」 未だ激しいデッドヒートに空気が震える最中にて 紫の女性、ライダーが槍の男に問いかける 「手加減したのですか?」 「んなこたねえよ」 「ほう、、」 抑揚のない女の声であったが そこには微かに非難の色が点っている 「機先を制していながら、あのような体勢の整っていない者を討ち漏らしたと? 必殺の槍も随分と錆付いたものですね」 「いーやいや、、並の奴なら為す術も無くおっ死ぬ程度の力は出したぜ?」 窮屈な箱の中だったしな、と付け加えるランサー 女のため息が漏れる それはつまり、手加減したと言っているようなものだ 戦好きの戦闘凶の遊び心が出たのだろう、、全く困ったものである 「というか、我々は自らの足で走って強襲をかけた方が確実だったのでは…?」 「戦にもな、様式美ってもんがあるんだよ 良い戦車戦だった……堪能したぜ、久しぶりによ」 核心を冷静についた騎兵の言葉など男は聞いちゃいない 古アイルランドの大地を豪壮な戦車で走り回った過去を思い出し、目を細めるグラディエイター 「戦車、ですか? あれは私の新車の参号君ですが」 「うるせえんだよお前は……細かい事をグチグチと ま、どの道、初顔合わせの挨拶としちゃこんなもんだ」 思い出に浸るのを邪魔されて口を尖らせる男が意味深な言葉を吐き、、 そして―――後方へ向き直った その横、ライダーもまた同様に 先ほどのコーナリングで傷ついた肘から滲み出す血をペロリと舐めながらに振り返る それはその視線の先に二つの気配、、 佇む影を認めての事 怒気と戦意を含んだ猛々しい気を放つ影を後ろに控えたサーヴァント二体 男は飄々とした笑みを、女は無表情を崩すことなく その相手に十分な余裕を以って振り返り、相対したのだった その相手とは言うまでも無く谷底へと落下していく車の両ドアから脱出した 機動6課ライトニング隊の隊長、副隊長に他ならない 黒のインナーに白いマント それに巨大なサイス型の杖を手に持つ黒衣の魔道士、フェイトテスタロッサハラオウン そして、薄い赤と白の戦装束にその身を包み 桃色の髪を後ろで縛った剣の騎士、シグナムである 「貴様ら……」 明確な殺気を放って対峙するシグナムが怒りの声を上げる あれだけの事をしておきながら余裕満々で立つ二人を前に 少なからず苛立ちを覚えたのだ 既に二人は、相手がどう出てこようと対処できるようBJを纏った完全武装体勢である にもかかわらず、、、その緊迫感とは裏腹に 騎士がその横にいる友の様子に気づき、訝しげに横目で見やる 謎の怪人相手に武装し、得意武器のサイスを以って相対している彼女であったが 何かこう心ここにあらずというか――精彩を欠いている感が見て取れたからだ どこか、目が呆然としている節がある 「テスタロッサ?」 この友人は極めて優秀な執務官にして武装隊の一員でもある 敵を前にしてこのような呆けた態度を取るなど有り得ない 声をかけるシグナムであったが、、、 (…………、、) その理由に程なくして気づく騎士 フェイトのその意識は今、確実に自分らが落ちていった谷底に向けられている 否、自分らではなく―― その為す術なく落ちていった―― 己の愛車に、、向けられている…… 「集中しろテスタロッサ、、敵の前だ」 それに思い至り、友の傷心が痛いほどよく分かるだけに 叱責を飛ばすシグナムの声にも今一張りがない 執務官―― 管理局の司法を司る役職であり しかしながら地球の検察などに比べ、遥かに荒事や現場投入される割合の高い 実戦を多分に伴うトップエリートである 素養、才能、経験、培ってきた能力、そのどれが欠けても給仕する事適わない 管理局において花形ともいえる、倍率一万~二万分の一では利かないほどの重要な役職であった しかも犯罪者との度重なる交戦、戦地に赴く率の高さから存命率の低い仕事であるが故に その数は局内でも極めて少ない だからというわけではないが、その執務官の局内での待遇 特に給与関係は、老若問わずかなりの高待遇となっている 若くしてその狭き門をくぐり抜け、執務官として飛び回ってきたフェイト だがしかし、その懐は―― 給金の高さと比例せず、決して潤っているわけではなかった 何故なら彼女は自分の信念、、自身の幼少時のような 辛く苦しい思いをしている孤児や特別な事情を抱えた子供を 引き取ったり、世話をしたり、目に留まった孤児院や設備に寄付をしたりと 事ある毎に多額の出資をしていた いくら高待遇だとはいっても、個人レベルでそこまでの活動をしている彼女である 財政が潤うはずもなかった しかしながら、それが今のフェイトの生きる理由の一つであり、進むべき道である以上 彼女のどこにそれを悔いる気持ちなどあろうか? 元々がほとんど物欲を示さないフェイトである 自分のために使うお金など口に糊する程度でよい、、 少しでも困っている人のために役に立ちたい それは、自身の無二の親友と共に歩もうと決めた尊い想い その、気を抜くとあっという間に先へと行ってしまう親友に追いつき一緒に飛ぶために そのために注ぎ込む出資、努力を彼女は全く惜しまない 惜しむわけが無いのだ、、このフェイトという女性は だが、そんな己の欲にまるで乏しいフェイトの初めての大きな買い物が―――あの車だった それは今回のように仕事で使う事が大半であったが 忙しい中のたまの休日 子供のように可愛がっているエリオやキャロを乗せてハイキングにいったり 高町なのはを助手席に乗せてドライブしたり そんなささやかな幸せを謳歌するために購入した 彼女唯一の慎ましやかな贅沢――幸せの詰まった黒い箱だった ソレが今、、、 暴漢の手によって無残な鉄屑と化し 谷底へと消えていったのだ その失望と悲しみは想像するに余りあるものであろう 「……テスタロッサ!」 シグナムが再び強い口調で戦友の名を呼ぶ 「―――大丈夫です」 乾いた声で答えるフェイト 「ただ……まだ少し支払いが残っていたので、、どうしようかな、と」 はは、と形だけの笑みを作る執務官 その様子は目を逸らしたくなるほどに痛々しい 「保険で払って貰え…」 こんな時、上手く慰めの言葉を紡げない不器用な将が 言葉足らずのフォローを入れるが、、 「いや、そいつは無理じゃねえか?」 相槌の声は意外なところからかけられた そのフェイトを悲しませている原因を作った目の前の男が 肩に槍をトントンと担ぎながらに、飄々と口を挟んできたのだ 「保険ってのは確か対象の具合によって金額が決まるって話だろ? 半損か全損か? 部位は? 状況は? 五月蝿いくらいに状況を鑑みて、初めて支払われるわけだが――」 チラっと谷底を見やり、 「あれじゃあ、なぁ…」 まるで他人事のように口ずさむ男 「確かにあれでは査定のしようがありませんね 事故の状況を説明するにも、この状況では――」 そして隣の女性がソレに続く 「自転車に乗った二人組の男女に車ごと突き落とされました―― このような説明では冗談としか受け取って貰えません それにあの奈落の深さでは、物品の回収も絶望的でしょう」 つらつらと並べ立てる言葉には、何故か凄まじく説得力があり だからこそこの両者の外見や佇まいからはあり得ない不自然さを醸し出す まるで色々なアルバイトに従事して、やけに世俗に詳しいフリーターであり まるで古書や骨董品のバイトで、査定というものに精通するパートさんのような口ぶりである 「―――かまいません」 やがて (この執務官には珍しく) 強い口調で言い放つフェイト このようなどう見てもマトモではない 実際、人外の存在であるサーヴァント相手に 地球の常識で後れを取ったライトニングの二人であったが、、 「あなた方を捕らえて――弁償してもらいますから」 そんな軽口に乗ってやれない程に この心優しい雷神は怒っていた 本来ならここで犯罪者に対しての勧告、警告をしなければいけないのだが そんな基本もすっかり頭から吹っ飛んでいる どれほどまでにショックだったのか言葉で言い表すのも難しい 「そいつは困った……俺、カネねえんだよ」 「私は居候の身ですから」 そんなフェイトに対し、実行犯の二人はどこ吹く風である 「まあ私の愛車もあの通り木っ端微塵なので それで痛み分けという事に」 「なるか……ふざけるな!」 横から怒りの口調を叩きつけるシグナムもまた 相手の得体の知れない余裕、ふざけた態度に苛立ちを露にする 「そうだな、まあ……アレだ そういう事なら俺に良い考えがあるぜ?」 後ろ手に頭をポリポリと掻きながら 男が相手の怒りをなだめるように割って入る 親近感の沸く表情は、こんな事態でなければ気風の良い青年にしか見えない まるで心底悪いと思ってるかのような男の様相 顔を唸らせ、一言一言選ぶように言葉を紡ぐ姿に邪悪なものは感じない そんな男が、、、 「死ねば―――少なくとも残りの支払いからは解放されるぜ?」 不意打ちのように獰猛な殺気を解放した 「「!!!」」 臨戦態勢を整えていた筈のフェイトとシグナムの心胆が まるで氷をブチ込まれたかのような寒気に襲われる そう、先ほどまでの軽口 まるでこちらを襲撃したのが何かの間違いだと思わせかねない空気に支配されかかっていたが 目の前の相手は紛う事なき敵、、 それも得体の知れない、未知の脅威を孕んだ強敵だという事を 二人はその歴戦のカンから改めて感じ取る ―――空気が軋む ―――ほどなくして、ここは戦場になる 「この襲撃……当然、我らの素性を知っての事だろうが、、」 不吉な空気を前にして 管理局局員である騎士は最低限の己の務めを果たす 「時空管理局の者に狼藉を働いた罪は決して軽くない… 剣を収めるなら今だぞ?」 「知らねえよ、お前らの事なんぞ 何たってこれから調べるわけだしな」 無駄だと感じながらに示した投降勧告を 予想通り、一蹴した男が肩に担いだ槍を後ろ手に持つ 「戯れた男だ…」 緊張感でギチギチと硬直していく大気が肌を刺し 心臓を、呼吸を圧迫する空気こそ 戦闘が開始される、その直前の戦場の空気―― 精神のギアを一気に臨界に持っていくシグナム 「…レヴァンティン」 ―――Die Zustimmung そして己が相棒、炎の魔剣を雄大に抜き放つ デバイスに搭載された擬似人格が 彼女の呼びかけに対し、甲高い声で答えた だが、、 「「!!」」 その、今まさに動こうとした相手の怪人が シグナムの言葉に表情を一変させる 「レヴァンテイン―――レーヴァテインか、、」 常に余裕を称えていた男の表情から 薄い笑みが消え、その声が微かに強張る 「とすると彼女は………スルト、、いや、シンモラ?」 紫の女の声も僅かながら半トーン上がっている 「……?」 その相手の動揺を称えた空気に 踏み出したシグナムの方が微かに戸惑ってしまう 「おいライダー、お前比較的近くの出自だろうが アレは――そうなのか?」 「――、」 二人の怪人の目は騎士、、 否、その右手に握られる剣に釘付けだ 「そこまでのモノは感じない……というか魔力すら感じ取れませんが 私には特別な事は何も――― 要は貴方が感じている認識と同じ、という事です」 「何だよおい、、バッタもんかよ……ふざけやがって」 「何をごちゃごちゃと言っている!?」 己の戦気を叩きつけてなお、微動だにしない まるで暖簾に腕押しだ と思えば、こちらの与り知らぬ事で何かを含む態度を取る この相手、、無性にやりにくい―― もっとももはや相手に足並みを揃えてやる必要など微塵も無い また一歩、間合いを詰めるシグナムが、容赦なくプレッシャーをかけていく ―― どちらが動く? ―― どう動く? フェイトが、シグナムが相手の挙動 その視線から指の先に至るまでを凝視し 相手の初動を見逃さぬようにしながら有利なポジションを取ろうと行動を開始する シグナムは槍の男を牽制―― フェイトは拘束魔法、ライトニングバインドの詠唱を―― 互いに意思疎通が無くても、10年来のパートナー 既に互いのやる事は分かっていた だが、、、ジリジリと距離を狭めるシグナムの後方で 摺り足で相手の側面に回り込もうとしていたフェイトの ある種第六感ともいうべき感覚が―― 己に降りかかる死の予感を感じ取り、背筋を凍らせる その瞬間、、 対峙する四つの影のうち 紫紺の女怪の体が――爆ぜた その長く美しい髪がゆらりと揺れたかと思ったら 常人には気づく事すら出来ない、全く予備動作無しの踏み込みで 援護のポジションにつこうとしたフェイトに紫の閃光となって襲い掛かったのだ 「なっ!!?」 それは信じられないほどの――恐ろしい速度 下手をすればフェイト自身のトップスピードに匹敵する速さだった 「くうッッッ!!!!?」 一番初めに動いたライダーの一撃目を何とかバックステップでかわす黒衣の魔道士だったが 大きくバランスを崩した身体はそのまま押し切られ、シグナムとの距離を離されてしまう 「気が早えなオイ……これだから物の怪の類は、、」 少し憮然となる男 開幕の一撃は誰にも譲らない筈だったのに よりによって一番槍を騎兵に横取りされてしまった… これでは最速の槍兵の立つ瀬が無い (テスタロッサ!) (だ、大丈夫です、何とか…… こうなってしまったら仕方がありません) ともあれ、交戦開始と共に 分断されたフェイトとシグナムがすかさず念話のチャンネルを開く (互いにフォロー出来る距離を最低限保ちつつ、可能であれば説得――) (やむを得ぬ場合は各個撃破だな……了解だ) もはや不意をつかれたという焦りも分断された不安も微塵も無い そこには互いに対する信頼感 相手が何であれ、このパートナーが一対一で簡単にやられる筈がないという絶対の確信があった (無理はしないで下さい…何かあったらいつでも――) (誰にものを言っている?) そこで念話は切れた フェイトとあの女の戦闘が本格的に始まったのだ ともあれ方針は決まった こちらも後は目の前の相手に集中するのみ 幾多の戦場を共に駆け抜けた己が愛剣を携える女剣士 その騎士の眼前 視線の先には禍々しい光沢を放つ紅き長槍―― その先端が陽炎のようにゆらゆらと揺らめいていた 「仲間がやべえってのに余裕じゃねえか?」 「生憎だが見かけと違い、そこらの無頼に遅れを取るほど 可愛げのある奴ではないのでな」 その槍から一寸も目を離さずに答えるシグナム 「―――無頼?」 相手の男の空気は掴み所が無い 隙あらば一撃で仕留めてやろうと構える将であったが、、 一見、どうとでも打ち込めそうなこの男は その実、こちらの間合いを悉く外すように槍の先で牽制してくる 故に迂闊に打ち込めない 「は、、ははは、無頼か! こりゃいい!! 言い得て妙だな! 確かにある意味、無頼の塊だわ……あの女は」 元絶世の美しさを誇る女神でありながら 神話において数多くの英雄の命を食らい続けた札付きの無頼女 その顔を思い出し、含み笑いの止まらない槍兵であるが、、 そんな緊張感のない相手にペースを掴まれるわけにはいかない 「もう一度確認する 私は管理局所属、機動6課ライトニング隊所属の騎士だ それを知りながら、お前は私に剣を向ける―――これで間違いは無いな?」 「だから知らねえっつってんだろうが」 微妙にズレた会話を続ける両者であった お互い、ここまで意思の疎通が成り立たない相手も珍しい 「現世にも色々な機関があるんだろうさ、、はっきり言ってそこはどうでもいい 元より俺の与り知る事じゃねえよ」 「そうか…ならば局員襲撃の現行犯だ 抵抗するならば、こちらも武力行使せざるを得ん」 「なかなかに強気な姉ちゃんだがよ、大丈夫かい? 初めに串刺しになりかけたの忘れたわけでもあるまい」 「……もう一度やってみろ、、 その右手に永遠の別れを告げる事になる」 「おお、怖え怖え…」 目に見えて火花を散らす両者 自分から隙を見せない槍兵に対し シグナムは変わらずプレッシャーをかける 「久方ぶりの槍働きなんだ…身体を慣らしたいんでな せめて二分はもってくれよ? 騎士の姉ちゃん」 「慣らすのは良いが五体満足で家に返してやれる自信が無い お前のような無礼者相手に手加減などする気はないのでな、、悪く思うな」 「ふざけろ、、いらねえよそんなもん」 尻上がりに上がっていく戦意 ぶつかり合う殺気 こういった舌戦もまた、戦いに生きる者にとっては心地よい (しかしまあ、、、) 威勢の良い相手だとランサーはほくそ笑む 事もあろうかサーヴァントを…… しかもこの「猛犬」を捕まえて手加減が云々などと、、 売り言葉に買い言葉で口走ったとはいえ 思わずぽかんと口を開けてバカ面を晒すところだった 結構、、得物の活きが良いのはいいことだ くく、と笑うサーヴァント その声が……… 次第にくぐもったものに変わる それはまるで、獰猛な魔獣の唸り声のようだった 「さて――おっぱじめるかい? こちらも」 いつまでも口喧嘩などに興を割いていては 逆に場がしらける フェイトテスタロッサハラオウンとサーヴァント=ライダーが交戦状態に入ってから遅れる事、一刻―― 男の、その揺らめく槍の穂先が ゆっくりとシグナムに向けて構えられる ―― それはどちらが示し合わせたわけでもなく行われる ―― シグナムもまた相手に 熱気漂わせる炎の剣を向ける ―― 戦士と戦士との間に交わされる暗黙の契約 ―― その槍と剣が中央にてコツン、と当たった瞬間、、 弾かれたように後方へ飛び退る両者 ―― 例え相手の凶刃にかかったとて、恨みっこ無しという ―― 女にとって男は、問答無用でこちらを亡き者にしようとした暴漢という認識は些かも変わらない 男にとって女は、ただ命じられるままに殺すだけの標的でしかない 意見を交わす事もなく、話も通じず 苛立だしい相手であり、今の時点では何の価値も認め合えない者同士 だが、、それでもこの武の誓いを交し合える程度には 二人は武に身を捧げた同士という事になる 「改めて名乗りを上げよう……我が名はシグナム 古代ベルカの騎士ヴォルケンリッター、烈火の将シグナムだ」 「………」 「貴様も名乗れ……槍の男」 「、、、、」 こちらに堂々と名乗りを上げ しかもサーヴァントに素性を明かせとは―― (つってもなぁ…) 本気で困ったような顔をするランサーである ともあれ正直、名乗ってやりたい衝動には駆られていたのだ 男にとってもこういうノリは嫌いではないし 目の前の女剣士の気概、潔さにも好感を持てる だが、、、自分は聖杯戦争におけるサーヴァント その自分に科せられた最低限のルール セオリーを無視するわけにはいかない 「俺はお前さんに取っちゃ今や無頼の罪人認定だからな…… 名乗るわけにはいかねえよ ただの―――――ランサーだ」 そう言って突き出したのは 男の唯一の武装である真紅の槍 「あとはそうだな……こいつにでも聞いてくれ」 それこそが、この男の出自を雄弁に語る かの英雄の手で踊り狂い、千の血を吸った呪いの魔槍―― それは男にとっても精一杯の、シグナムの名乗りに対する礼であったのだが…… ついには、この女剣士には伝わらなかった そう、地球の伝承を全くといって良いほど知らないこの騎士に それが伝わるはずもない 「ならば、、来い―――ランサー」 「へっ、、上等だ」 他人が見ればアナクロな決闘風景と笑うだろう だが武に生きる者にとってはその空気がひたすらに心地よい 言葉ではちぐはぐだった二人だが 彼らは結局、剣を交えてのみでしか 互いを理解しあえない人種なのかも知れない 両の手で槍を回転させ 低い姿勢からの下段の構えにて構えるランサーと 片手剣のまま仁王立ちで その魔力を解放させ、炎を纏いて相手を威圧するシグナム 百戦錬磨の闘将とケルト神話の英霊 その壮絶なる戦いの火蓋が今―――切って落とされようとしていた ――――――
https://w.atwiki.jp/misamisathread/pages/335.html
→参照 →参照 出典: 魔法少女リリカルなのは 第2期に養子になったため「フェイト・T(テスタロッサ)・ハラオウン」と改名する。 高町なのはのベタボレらしい。
https://w.atwiki.jp/teikokuss/pages/1009.html
10日ぶりの更新である。というわけで文字通りやりたい放題やった結果が、今回のフェイトの大冒険である。手持ちのアイテムを少しづつ無くしていって、最後に何も持たなくなった時に、求めるものを得られる、という文法は、ロシアの童話では結構頻繁に使われていたと記憶してる。そういう意味では、今回のお話は書いていて非常に楽しかった。やはりオーソドックスなものはオーソドックスであるだけの事はある、ということであろう。 フェイトは基本的に食が細い。そして極めて幸運なことに、これまでの短い人生の中で飢えるという経験をしたことがなかったりする。さらに、一般庶民の食事は一日二食であるのが当たり前の世の中で、三度三度欠かすことなく食事をすることができていた、ということも理由としてあった。食べ物にがっつかなくて済む環境で育ったことが、彼女の口をきれいにしていたといえる。 「先輩が焼いてくれた焼き菓子だ。さあ、食べたまえ」 「はい。ありがとうございます」 そして何かというと、こうして食べ物を勧めてくれる人にこと欠かなかったせいで、食べることにさほど執着を持たずに済んだともいえた。 自習室で教科書に目を通すつもりでいたフェイトは、気がつけばノイナに勧められた薄焼き菓子を一枚とって端から少しづつかじっていた。一人机に座って数学の教科書をひろげようとしたところで、ノイナが声をかけてきたのだ。その教科書はすでに何回か目を通していたため、断る必要もないだろうと席を一緒にする申し出を受け入れたところ、さっそくお菓子を勧められたというわけである。 丁寧に挽かれた上質の小麦粉に、卵と砂糖と牛乳をふんだんに使ったとても美味しいお菓子であった。香り付けにナツメヤシの実から抽出した果汁を使っているのか、とても甘い。 基本的に外から食材を搬入しなくてはならないこの「学院」で、どうやって生ものである卵と牛乳を入手したのか、それがフェイトには不思議であった。もっとも、魔導を行使することをクラウディアから禁止されているため、その来歴を観測するようなことはしなかったが。 勧められた焼き菓子を一枚食べ終わると、フェイトはにこにこと微笑んでいるノイナにぺこりと頭を下げて感謝の気持ちを表した。 「ご馳走になりました」 「遠慮することはない。さあ、もう一枚ゆきたまえ」 「ありがとうございます。ですが、夕食が食べられなくなります」 「ははっ、君は本当に小食だなあ! まるで小鳥のようだ」 なにが嬉しいのか、ノイナは声をあげて笑う。フェイトにとって間食とは、誰かに勧められるか、お付き合いで食べるものであって、特に自分から食べたいと思ったことがなかった。なにしろここしばらくは第901大隊の営舎で暮らしていたのだ。軍隊式のこってりとしていて量のある食事を三度三度食べていたのである。それだけで十分お腹がくちくなる。「学院」の食事も、おかずが一品少ないくらいで、味はともかく量だけならば十分なものがあった。 フェイトと一緒に焼き菓子を口にしていたノイナが、嬉しそうに話を続けている。 「先輩の焼く菓子は、本当に美味しいなあ。うちから砂糖を取り寄せた甲斐があったというものだ」 「砂糖の精製をしているのですか?」 「そうさ。砂糖大根の栽培をやっていてね。いや、他ににも色々と手広くやっているのだが、あまり無心するのもはしたないからなあ」 領主というものは、できる限り自分の領地で採れたものでやってゆくのがたしなみなのだ。 自慢げにそう答えたノイナは、ぱちりと片目をつむってみせた。 そんな彼女のフェイトは目の前に山とある焼き菓子を見て、そういえば無名やクラウディアはこれを口にしたらどういう感想を述べるのだろう、と、興味を抱いた。確かにこの菓子は、ノイナが自慢するだけあって、大層美味しい。 二つ折りにされている袖のカフからハンケチを取り出したフェイトは、お菓子を何枚か包んで席を立った。 「ああ、ウェーラが焼いたお菓子だね。美味しかったよね」 「はい」 離れた席でアウレリアと一緒に勉強をしていたクラウディアのところにお菓子をもっていったフェイトは、これを焼いたのがクラウディアの友人であることを聞かされた。すでに二人とも同じものを口にしていたようで、ハンカチに包まれた焼き菓子を見て嬉しそうに微笑んでいる。 「フェイトさんは、どちらでそれを?」 「ノイナさんから頂きました」 「ああ、ウェーラと同室の子だね。そっか。さっそく友人ができたみたいでよかったよ」 「ケイロニウス御一門の方とうかがっていましたけれども、仲良くやっていらっしゃるようで良かったですね」 話は焼き菓子からノイナのことに移っていて、フェイトはそれにどう反応したらよいのか迷った。 皇統であるケイロニウス一門が「帝國」では大変に大きな存在であるということは、「学院」に入学してしばらく過ごすうちに実感として理解できた。なにしろレオニダス公爵家姫君のノイナと同じ学級なのである。学友達が畏れを抱いてか、あまり彼女に近づかないようにしているのを見れば、いやでも判るというものである。敬して遠ざけられるとはこのことであろう。そんな彼女だからこそ、特に畏れたり取り入ろうとしたりしないフェイトに、こうして好意を示すことができるのではないかと思ったのだ。 二人がすでにこの焼き菓子を口にしているのであれば、特にここにいる理由はなくなる。 次は無名に食べてもらおうと思って自習室を見回してみるが、どこにも彼女の姿は見えない。 無名はどこにいるのか、それをクラウディアに聞こうと視線を向けたところで、足音も高く近づいてくる少女がいた。 「クラウディア、無名を見なくて?」 「いや、見ていないけれど? 何かあった?」 「あの子! 人が勉強をみてあげるというのに、それを断るなんて!」 一期生学生代表のセレニアである。長く真っ直ぐの黒髪を後ろに流し、萌黄色の髪留めでとめて秀でた額をあらわにしている。何か気に入らないことでもあったのか、まなじりを決していて、肩をいからせていた。普段はつとめて優雅に振舞っている彼女が、こうも感情を激発させている姿を見せるのは、それはそれで珍しい。 「そっか。それで?」 「私が、復習を見てあげるから、と言ったらなんて返事したと思って? 「勉強は嫌いだ。だから授業中だけで済ませるようにしている。いい」ですって!! まったく、次の試験で上位に入らなかったらただでは済まさなくてよ」 「あはは。無名らしいや」 「笑い事ではなくってよ!」 確かに無名らしい、と、フェイトも思った。 ナタリアに「学院」受験のための勉強を見てもらっている時も、はっきりと興味なさげな様子であったし、そもそも自習室で教科書を開いているところを見たことがない。そういえば、彼女は二言目には、あいつがいるから入学するんだ、と、口にしていたか。 フェイトの記憶では、無名はむしろ本はよく読んでいたようであるが、自分の興味の向かないことにはまったく見向きもしないのが彼女らしいといえばいえた。 腹立たしさに頬を上気させているセレニアに、フェイトは両手で包みを開いたハンカチの上の焼き菓子を差し出した。 「いかがです?」 「あら、ウェーラの焼いたお菓子ね。ありがとう。でも私も頂いているの。気持ちだけ受け取っておくわ」 一瞬前の激発が嘘の様に落ち着いた様子になって、セレニアはフェイトに向かって微笑んだ。 「取り乱したところを見せてしまってごめんなさいね。ええ、もう大丈夫よ。それは貴女がお食べなさい」 「はい」 「本当にあの子、勉強が終わったらこれを食べさせてあげようと思っていたのに。今日はお預けね」 まったくもう。憤懣やるかたない、という口調でそう言葉にしたセレニアに向かって、ぺこりと頭を下げたフェイトは、無名を探すべくその場を離れた。 無名は基本的に人見知りする上、気分を害するとすぐ殺気立つ。そんな彼女がのんびりとした時間を過ごすには、誰か人の気配のしないところが必要である。「学院」の敷地は広いが、かといって人の気配のしないところ、というのが難しいところであろう。何がしかの必要があってのこの広い敷地なのであり、ゆえに何がしか人の気配があるものなのだから。 フェイトは、脳内に「学院」の敷地を地図として展開し、そのどこならば無名のいる可能性が高いか考察した。 寄宿舎、ということはまずない。この学院で最も他人の気配が濃く、彼女にとって最も居心地が悪い建物であるから。 校舎、これもない。今の時間帯は、課外活動のために多数の学生がおり、人目を引きたくない彼女が近づく可能性は限りなく低い。 講義棟、図書館、食堂、職員棟、礼拝堂、以上どこも同様の理由で除外。 倉庫棟。ここの近辺ならば、基本的に人の気配はしないはず。そこは今すぐ必要ではないものを格納しておくための場所であって、常に人がいるわけではない。この近辺ならば、人の気配のない場所があるだろう。 フェイトは、入学以来あちこち歩き回って自分の目で確かめて廻った経験をいかして、倉庫棟に向けて歩き出した。 「「「眠りは甘い砂糖菓子、もろくも崩れて再びの地獄♪」」」 フェイトが倉庫棟の近くにまで足を運んだところ、透き通るような美しい声色で、だがコブシの効いた腹の底から出される腰の据わった歌声が聞こえてきた。 「「「ゆらめく影は、よみがえる悪夢♪」」」 フェイトの記憶であれば、この歌は兵隊歌謡のはず。少なくとも、修道会系の学校で女生徒が歌っているはずのない代物である。 誰が歌っているのだろう。存在するはずの無いものが現実にはここに在る。その事実に興味が沸いたフェイトは、そっと気配を忍ばせて歌声のする方に近づいていった。 「「「炎に焼かれ煙にむせて、ここで生きるがさだめであれば、せめて望みはぎらつく孤独♪」」」 歌っていたのは、食堂でフェイトの右隣に座しているダリアという二期生学生代表の娘と、最近になってその隣で食事をするようになったルスカシアとアルブロシアの三人であった。 歌のリードをとっているのはダリアで、それに音階を合わせてルスカシアとアルブロシアが歌っている。三人の中ではダリアが最も歌が上手で声量も音感も抜群であった。アルブロシアも声量で敵わず、腹ではなく喉で歌っているところがあったが、音感は決して悪くはない。最も下手なのがルスカシアで、大声で叫ぶようにして声を出している上、音階など無視して調子っぱずれで勢いのままに歌っていた。 腕を振るい、全身を揺らして歌う様は、礼拝堂で練習している聖歌隊の学生らとは正反対の様子であったが、それでも歌うことの楽しさを三人揃って全身をつかって表現していた。 「はぁはぁ、いやー やっぱ人数いたほうが気持ちいいじゃん。な、次「さよなら兄弟」いこうぜ、ダリア」 「待てってばよ。少し休ませろっての。あー 水、水。っと、アルブロシアも飲め」 「うん。ありがとう」 一通り歌い終わってから水筒の水を回し飲みし始めた三人の姿を見て、フェイトはここにも無名はいなさそうだと見当をつけ、くるりと背を向けて立ち去ろうとした。 だが、なんの偶然か、ルスカシアがフェイトの後ろ姿を見つけて声をあげた。 「おぉうっ!! ふぇいとだ、ふぇいと!!」 「は? 誰だよ、そいつ?」 「お前の左隣に座ってる子だってば! おーい、ふぇいとぉー 一緒に歌おうぜー」 「おい、待て、なんでそぅいう話になるんだよ、お前はさぁッ!!」 目ざとくフェイトを見つけたルスカシアが、猛然とダッシュをかけ、フェイトに向かって飛びつく。 それを避けて逃げるくらいフェイトにとっては特に難しいことではなかったが、しかし、魔法を行使することを禁じられているのと、ここで逃げ出しても食堂であれこれ詮索されることが明白であるため、この場はあえてルスカシアのなすがままにさせることにした。 「そぉいっ!!」 そのままフェイトに跳びついたルスカシアは、ぎゅっと抱きしめると、少女の金髪の頭にほほを摺り寄せ、すんすんと匂いをかぐ。 「うおっ! すげぇー ぷにぷにでさらさらで最高ぉーっ!!」 「なにオヤジ臭ぇこと抜かしてんだ、お前はよッ。ほれ、こいつ驚いているじゃねぇか。離れろってばッ」 「……ごめんなさい。大丈夫?」 「はい」 うっとりとした表情でフェイトの全身をぺたぺた触り始めたルスカシアをダリアがひっぺがすと、アルブロシアが腰をかがめてフェイトの顔をのぞきこんだ。 背が高く大人びたアルブロシアが気遣わしげな表情をしているのを見て、フェイトは、ぺこりと頭を下げた。 「お邪魔をしたようで、ごめんなさい」 「ううん、平気だよ。こちらこそごめんね、驚いたでしょう?」 「いえ、大丈夫です」 跳びつかれた時に、よろけて倒れそうになったものの、半身になり腰を落として構えておいたおかげで転がらずに済んだ。そして、ぎゅっと抱きしめられたり、頬をすりよせられたりするのは、ナタリアを相手にしていることもあって特段驚くようなことでもない。 だが、そんなフェイトの側の事情を知るよしもないアルブロシアは、そっと軍用水筒を差し出した。 「回し飲みでごめんね。湯冷ましだけれども飲む?」 「頂きます。ありがとうございます」 手渡された水筒を両手を持ち上げて、一口水を含む。歩き回っていて身体が水分を欲していたのであろう、その湯冷ましは大層美味しかった。 「いかがですか?」 湯冷ましのお礼のつもりで、ハンカチで包んでいた焼き菓子をアルブロシアに向かって差し出す。 「おっ、もーらいー ……うまっ!!」 「おめーって奴はッ、少しは考えろってばよ。……おろ、本当に美味めぇ」 「うん、これ美味しいよ」 フェイトが差し出した焼き菓子を、横からルスカシアが一枚さらって口に放り込む。それをたしなめたダリアも、フェイトがハンカチを引っ込める様子が無いのを見て自分も一枚とって一口かじり、最後にアルブロシアが手をつけた。 三人が三人そろって焼き菓子が美味しいことに驚いている様子に、フェイトは、三人にも食べてもらって良かったと思った。 「よしっ、もう一枚~」 「おめぇは少し遠慮しろッ!」 さらにもう一枚と手を出したルスカシアの手の平を、ぺしっと叩いてひっこめさせたダリアが、フェイトに向き直って頭を下げた。 「美味しいものを、ありがとうございました。改めて友人の無礼をお詫びします。申し訳ありませんでした」 「いいえ。問題ありません」 「ごめんなー フェイトって、あんまりに可愛いからさー 一回抱き心地を確かめてみたかったんだー」 「それもどうかと思うよ」 てへへー という表情で笑ってごまかそうとするルスカシアを、アルブロシアが冷めた目で見、ダリアがやれやれという表情になった。 そんな三人の仲の近しさに、フェイトは色々なことを不思議に思った。見たところ、生まれも育ちも性格も随分と違う様子の三人であるのに、こうして仲良く歌を唄って楽しんでいる。その様な関係というものは、少女はこれまで見た事がなかった。 「そーいや、ダリアってば、せっかく隣なのに全然フェイトと話さないのな」 「たりめぇだろうが。そもそもきっかけが無かったんだからよ。あと、食事時にぺちゃくちゃおしゃべりすんのは無作法なんだよ。お前もちっとは反省しろ」 「いやー でも食事って、にぎやかな方が楽しいじゃん」 「生憎と世の中には、礼儀作法っていうもんがあんだよ。お前は少し勉強しろ」 ぎゃあぎゃあと言い合うダリアとルスカシアの二人を、じっと見つめているフェイトに、困ったな、という表情でアルブロシアが視線を向けてきている。 「お、そーだ。お菓子のお礼なー」 いい加減ダリアとじゃれあうのに飽きたのか、ルスカシアはフェイトに近づくと、自分の頭の両脇で癖の強い茶髪をまとめていた黒いリボンをほどいて、フェイトの髪をまとめ始めた。 さすがにルスカシアのこの行動は予測できなかったフェイトは、目をなんどもぱちくりとまばたきしつつ、彼女のやりたいようにさせるしかなかった。 「……うおっ、可愛ぇっ!!」 「うわ……、確かにこれは反則だぜ……」 「うん……」 両耳の少し後ろあたりの上の方で黒いリボンでまとめられた金髪が肩から後ろに二筋流れ、「学院」の黒い制服と白いケープ付きカラーのせいでよく映えている。フェイトの瞳はどこまでも澄んだ真紅の色合いで、ま白い肌と透き通るような金髪の中で一点の輝きとなって強い印象を他人にあたえた。 だが、そうした自分の容姿に全く興味がないフェイトにとっては、あまりのことに絶句した三人の態度は理解の外であった。ただリボンを譲ってもらったという事実だけが彼女にとっては意識するべきことであって、少女はルスカシアの前に歩を進めると、ぺこりとおじぎをした。 「ありがとうございました」 「お、おう。……皆には黙っとく」 頭を下げたフェイトの耳元に唇を寄せたルスカシアが、そう一言つぶやいた意味を、少女は正しく理解した。 なにしろ彼女はフェイトの髪をまとめるために頭に触れているのだ。少女の側頭部に本来は生えているべきものが切り落とされた跡にも触れている。だが、その事実をおくびにも出さないだけの性根がルスカシアにはあった。彼女が黙っている、と口にした以上、本当に墓場まで黙ってもってゆくつもりなのであろう。それだけの覚悟が、彼女の短い一言の中に感じ取れた。 だからフェイトは、もう一度深く腰を折って、ルスカシアのその覚悟に礼を述べた。 ルスカシア達三人と別れたフェイトは、一度寄宿舎の方に戻ってみることにした。人がいないはずのところにも、ああして人がいる以上、無名が人のいないところにいるとは考えられなくなったからである。人の気配が感じられても、実際には人が訪れないところ。そういうところを探してみることにしたのだ。 そうして建物へ向かって林の中を歩いていると、不意の開けた場所に出た。そこは人の手が入っていて、小さいながらもよく手入れされた菜園になっている。諸々の作物のみならず、各種の薬草までも植えられていることに興味をもったフェイトは、立ち止まって観察を始めた。 「フェイト学生じゃね」 その老人の気配に声をかけられるまで気がつけず、フェイトは、はっとして声の方向に向き直った。 そこには、粗織りの粗末な修道服に麦わら帽子をかぶった老修道僧が、農機具を手に立っていた。真っ白い髭を綺麗に整え、すっくと真っ直ぐに背筋を伸ばしている姿は、とても見た目通りの老人には思え無い。さらに老人が声をかけてきたのが、フェイトの間合いのすぐ外側からということが彼女の注意を喚起した。 「そこで立っているのもなんじゃろう。こちらに来て座りなさい」 「はい。学院長殿」 彼が入学式の最後に色々な講話をしたことを覚えている。エウリュネス・クラウディウス・ネロ導師。かつて帝國元帥にして帝國方伯であり、副帝レイヒルフトにも匹敵するとも噂された軍事的才能の持ち主。今では出家し、この「学院」の学院長として「帝國」の次を担うべき若者らを育てている教育者にして聖職者。 だが、フェイトの目の前に立っている老人は、奥深さこそ感じさせるものの、ただ姿勢の良い好々爺にしか見えない。 エウリュネス導師にうながされるままに菜園の外れに据えられている丸太の長椅子に腰を下ろした。 「どうやら馴染めている様子じゃな。善き事よ」 「ありがとうございます」 「探し人は見つからぬ様子じゃが、案外近くにおるかもしれんよ。人は往々にして足元は見えぬもの故にの」 「!?」 フェイトが無名を探していることは、この老人は知らぬはずである。傍から見れば、ただ林の中をさ迷っていたようにしか見えないはず。 「ふむ、驚いた様子じゃな。何、歩いている人を見る時、まず足元を見てみなさい。歩き方と靴は、嘘をつかぬからの」 「よろしいでしょうか、学院長殿」 「なにかの?」 「私の足元から何を知り得たのでしょうか?」 フェイトは、自分の足元を見、学校指定の短靴と長靴下をはいていることを確認し、そこからこの老人が何を知り得たのか理解できずにいた。 「その事か。靴に泥と裏手の倉庫の辺りの樹の葉が付着しておるな、そして手に包みを持ち、疲れておるのか膝があまり上がっておらなんだ。その上で林の中を真っ直ぐに建物へ向けて歩き来た。今の時間帯は、学生は寄宿舎か校舎におるはずじゃからの。そこから倉庫の方に歩いてゆき、そしてまたこうして真っ直ぐ戻ってきたわけじゃ。何か誰かを探しておったのじゃろう、とは、まあそう思ったわけじゃよ」 「了解いたしました」 「ついでに言えばの、そのまとめてある髪も、左右で長さが違うておる。その黒いリボンを貰って、その場で髪をまとめてみた、そんなところかの」 「……はい」 本当によく見ている。多分今口にした以上の事もフェイトのあり方から見てとっているのであろう。これが副帝レイヒルフトに特に請われて「学院」を任されることになった男か。少女は内心、この老人にどういう態度をとればよいのか判らず、色々な可能性を考察しようとした。 「難しく考える必要はないんじゃよ。ただ見たものを見た通りに見る。感じたもの感じた通りに感じる。意味を付けるのはその後のこと。そう師から教わらなんだかの? 事物はただその場に在るもので、それの意味は、意味をつける者の数ほどにも種類がある故にな」 その言葉はフェイトにとっては馴染みのある内容であった。そもそもが魔導とは、観測者と観測対象との相互性で成立している。そして両者の存在の意味は、その時その場で相互の関係性によって規定されるものであるのだ。 「ただ歩いてみるだけでも、人は、見るべき様に見れば、未知に出会うことができる。故に未知を既知とするために人は歩いてゆくものじゃよ。そなたは今日は多くの未知と出会い、受け入れた様子じゃな。善き事かな。善き事かな」 皺深い顔に穏やかな微笑みを浮かべてそう語った老人に、フェイトは、ただうなずいて返すしかできなかった。この老修道士がフェイトの事情について何も知らぬわけがない。むしろ全ての事情を知った上で学院に受け入れたのであろう。魔族である自分を、そうと知った上で受け入れてくれる人がここには何人もいる。その事実にフェイトは知らず知らずのうちに感謝の気持ちを抱いていた。 「……よろしければ、いかがでしょう?」 「ほう。これは美味しそうなお菓子じゃな。それでは、それをお茶請けにするとしようかの。ついてきなさい」 丸太から立ち上がったエウリュネス導師の背中にぺこりとお辞儀したフェイトは、そのまま老人の後ろをついていった。 エウリュネス導師の元でお茶を喫し、お礼を述べてからその場を去ったフェイトは、ふと思い立って礼拝堂の方へと歩いていった。老修道士の話は含蓄に富んでいて、色々と考察してみる価値のあるものであった。その充実した時間の余韻を感じたままでいたくて、あえて寄宿舎の方には戻らなかったのである。 そうして歩いていると、礼拝堂と校舎の間の人気の無い敷地で、一人木刀を振るっている少年がいた。いや、この「学院」の女生徒の制服を着用している以上、少年と呼ぶのは相応しくはない。だが、少年としか形容しようのない雰囲気を身にまとった者であった。 彼が新しく第901大隊の第766教育隊に配属された学生の一人で、モリフォリウスと呼ばれていることをフェイトは思い出した。 「やあ。君はフェイトだね。僕はモリフォリウス」 「ごきげんよう」 フェイトの視線を感じたのか、木刀を振るうのを止め、真っ直ぐの姿勢をとり右手の人差し指で天を指しつつ左手を組み人差し指と小指を立て、モリフォリウスはそう名乗った。 そんなモリフォリウスにフェイトは軽く会釈して挨拶した。 「礼拝堂に何か用かな。もう誰もいないけれどね」 「いえ」 別に礼拝堂に用があるわけではない。ただ無名を探して歩き回るのは止めにしただけのことである。歩くために歩いている、というのが今のフェイトの気持ちに近いところであろうか。だが、それを口にするつもりはなかった。 「誰かを探しているなら自習室にゆくといい。何かを探してるなら舎監のところにゆくといい。物事には、かく為るように為る「道理」というものがあるのだから」 「はい」 このモリフォリウスが何を考えているのか、フェイトには別の意味で判らなかった。多分何も考えていないのではないか、というのが正解に近いのではないか、とも思えてくる。 そんなフェイトの困ったような雰囲気を察したのか、判っていないのか、モリフォリウスは話題を変えた。 「是非教えて欲しいんだが、その手にしているハンカチの中身はなんだい?」 「先輩が焼いて下さったお菓子です」 「そうか。そういう行為もここでは許されているのか。修道会の寄宿舎といいつつ、なんという自由さ。いいね、気に入った」 「……………」 「そういうわけだ。僕にも一つ食させて欲しい」 「駄目です」 なにしろ色々な人に配って歩いたせいで、焼き菓子は残り一つだけになっている。最後の一つは無名の分なのだ。ここでモリフォリウスに食べさせるわけにはいかない。 「……フェイト。君は人が何のために生きているか知っているかい?」 「いえ」 「それはッ! 「欲する物を手に入れること」!! ひと言で言うならッ、人が生きるということは「ただそれだけ」なのさ!!」 すっと体捌きでフェイトの前に移動したモリフォリウスが、くるりとその場でひと回転し、少女の右手に移動する。 フェイトが左手の方に身体を移した時には、すでにハンカチはモリフォリウスの手に移っていた。 「うおォン! 美味い、美味いぞーッッ!! フェイトぉおおッ!!」 ハンカチに包まれた最後の焼き菓子を口に放り込んだモリフォリウスが、全身を使って喜びを表している。さしものフェイトであっても、彼のその姿にはいらっとくるものがあった。次の訓練日には、ナタリアに頼んで是非ともモリフォリウスと模擬戦をすることを心の中で誓う。 わずかに目を細めて無表情なまま、内心ではそれなりに不愉快な感情を覚えていたフェイトに、少し離れたところから声がかけられた。 「よう。どうしたフェイト」 「無名さん」 「機嫌、悪そうだな」 礼拝堂の影から現れた無名が、軽く右手を上げてすたすたとフェイトの方に向けて歩いてくる。学院長の言う通り、ごく近いところにいた。その事に内心では舌を巻きつつ、フェイトは無名に向けてぺこりとお辞儀をした。 「髪、まとめたのか。似合っているぜ」 「ありがとうございます」 ふっ、と目を細めて笑った無名に、フェイトはもう一度ぺこりとお辞儀をした。普段、人の容姿について何も口にしない無名が褒めるのだ。きっととても良く似合っているに違いない。 「で、何があったんだ」 「焼き菓子を頂きました」 「そうか」 「無名さんにも食べていただくつもりでしたが、無くなってしまいました」 「そうか」 「最後の一つを彼が食べました」 「そうか」 次の瞬間、無名はまるで「転移」したかの様にモリフォリウスの前に立っていて、軽く左肘を上げて身体を半回転させていた後であった。 そして、モリフォリウスはすとんと膝から崩れ落ち、その場に尻餅をつくようにして地面に座りこむと、そのまま仰向けに倒れた。その無名の動きを、フェイトは全く目で追う事ができないでいた。 「どうやったのですか?」 「肘をおとがいに当てた。しばらく寝ているだろ」 「はい」 無名にモリフォリウスの行為について伝えたのは、単に事実を知らせるべきだと思ったのが理由である。まさか即座に意識を刈り取るとは、さすがにここ数ヶ月一緒に営舎で暮らしていたフェイトにも読めなかった。クラウディアが彼女のことであれこれ心配するのが何故か、今この瞬間はっきりと心と身体で理解できた。確かに彼女は危険だ。ささいなきっかけで何をしでかすか判らない。 「なあ、本当にもう無いのか?」 「セレニア先輩が持っている可能性が高いです」 「本当かよ。まいったな」 そんな無名であっても、セレニアは苦手とみえる。眉をハの字にして、どうしたものかと思案顔で困っている。 だからフェイトは、初期の目的を達成するべく、無名に提案してみることにした。 「私と一緒に、お菓子を食べさせてもらえないか、頼んでみましょう」 セレニアは、フェイトのお願いに抗うことはできなかった。
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というわけで、何故かフェイトが覚醒するの回。本来彼女は受身キャラのはずが、自分からクラウディアや無名にアプローチをしかけたり、キャラが勝手に動くというのはこういうことか、と、いう感じである。もっとも、口調からして元のリリなののフェイトとは違っているわけであり、このフェイトはあくまで「帝國」SSのフェイトということであると再確認したわけだが。 ここしばらくフェイトは、勉強する時には自室に戻ってきてから帳面をひらくようにしている。自習室で勉強しようとしても、色々な人間が近寄ってきて話しかけるので勉強にならないのだ。特に髪の毛を二つにまとめるようになってからは、その傾向が強くなっている。ただそれだけの事であるのに、何故他人の態度にこうも変化が起きるのか、不思議でならなかった。 確かに不思議であるが、だからといってそのまま放っておくのも実生活に支障がある。髪をまとめるのを止める事も考えたが、無名とクラウディアが露骨に残念そうな表情をしたので、そのつもりも失せた。 「何故、皆さん私に触りたがるのでしょう?」 「……うん? そうだね、きっとフェイトが可愛いのと、さわり心地がよいからじゃないかな」 同じ様に自室で勉強していたクラウディアに、その手が止まったところを見はからって声をかけた。 クラウディアの答えはフェイトの推測の範疇にとどまっており、現在の状況を改善するための材料にはなりえない。 「はい。ですが、皆さんは互いに触りあったりしていません。私だけが触られたり抱きしめられていたりしています」 「もしかして迷惑だった?」 「このままですと、「学院」での生活に支障をきたすのではないかと考えました」 クラウディアは腰を上げると、椅子の背に両腕を乗せて、さらにその上にあごを乗せてフェイトに向き直った。 「迷惑なら、止めさせるよ」 「いえ、そういうことではないのです。何故、私だけが皆さんにとって特別に可愛がられるのか判らないのです」 「うーん、そうだね、一つにはフェイトが嫌がるそぶりを見せないというのは大きいと思う。だから、みんな遠慮しなくなってきているというのはあると思うよ」 「はい。ですが、示される親愛を拒むのは、私にはできません」 フェイトは魔族である。それも双性者であり魔導八相に達した導師でもある上級魔族なのである。その自分が人族の集団に受け入れられ、純粋な好意を示されるということは、とても価値があることだと思っていた。かつて自分を救ってくれた黒騎士ヒュドの言葉を、彼女は一度として忘れたことはない。この「帝國」においてすら、魔族が差別されることなく生きてゆけるのは軍隊の中だけである、ということを。 ここはあくまで「教会」に所属する修道会が経営している寄宿舎制学校である。その集団の中で自分が魔族であることが明らかとなった時、どのように排除の対象として扱われるのか、それが非常に陰惨なものとなるであろうことをフェイトにも簡単に予想ができた。 「……そうだね。ばれてはいないけれど、フェイトには事情があるからね」 「はい」 「まあ、でも、その全か無か、という割り切りはちょっと違うと思うんだ」 「といいますと?」 「親しき仲にも礼儀あり、ってね。どんなに仲の良い間柄でも、守るべき礼儀はあるってこと。フェイトも、困るならば、相手にそう伝える必要はあると思うよ」 「……………」 確かに礼儀は人間関係を円滑に保ってゆくために必要なプロトコルである。それが理解できないほど、フェイトも物知らずというわけではない。だが、その線引きがよく判らない。元々彼女は、森の中で母親と二人きりで生活していたのだ。微妙な人間の間柄の機微にうとくても仕方がないといえた。 「まあ、そのあたりはおいおい学んでゆけばいいんじゃないかな?」 「はい」 フェイトの困惑をみてとったのか、クラウディアは、それ以上深く話を進めなかった。 フェイトは、クラウディアのそうした気配りを常々好意的に思っていた。だから、この瞬間、ふと親愛の情を抱いているのだ、と、彼女に示したくなったとしても、それはそれで自然ななりゆきであったといえよう。 「クラウディアさん」 「なんだい? あらたまって」 「もふもふしてよいですか?」 「はい?」 突然のフェイトの希望に、さしものクラウディアも思考がおいつかず固まってしまっている。 クラウディアの思考が再度動き始めるまで、フェイトは黙って待ち続けた。 「……ええと、なんで突然そういう話に?」 「もふもふしたくなったからです」 この「学院」に来てから、クラウディアはフェイトのことを親身に世話してくれていて、そして温かく見守ってくれていた。そのことには常々感謝していたし、そして感謝しているという事実を示したいと思うこともままあったのだ。ただそれを示したくても、これまではそのための手段を彼女が知らなかっただけである。触れたり、撫でたり、抱きしめたりすることが相手への親愛の情を示す行為ならば、さっそくそれを実行してみるべきであろうと、彼女はそう考えたのだ。 「う、うん。それは構わないけれど」 「ありがとうございます」 フェイトはぺこりとお辞儀をすると、そのままクラウディアの寝台の横に移動した。 「つまり?」 「クラウディアさんは、私よりもずっと背が高いです。そのままではもふもふできません」 「うん。じゃあ、そこに座ればいいんだ?」 「はい」 クラウディアは、フェイトの返事にうながされるようにして、自分の寝台の上に腰を下ろした。 フェイトは、自分も靴を脱いで寝台の上に上がると、クラウディアの横に膝立ちとなって彼女を抱きしめた。まずは彼女の頭を自分の胸に抱きしめ、ゆっくりと髪をなでる。それから鼻先をその黒い真っ直ぐの髪にうずめ、ほほすりした。普段知っているよりも、ずっと強く彼女の体臭と体温が感じられる。 クラウディアの体温が徐々に上がってゆくのを感じ、フェイトは、自分の心臓の鼓動がそれに合わせて早くなってゆくのを自覚し、どうしようかとしばし考えた。 「……はいぃ!?」 フェイトが出した結論は、クラウディアのことをもっと強く抱きしめることであった。 そのまま彼女の膝の上にまたがり、腰を下ろす。眼鏡越しに見開かれたクラウディアの蒼い瞳をのぞきこんで、彼女の上げた声にフェイトもびっくりしてしまった。 「ええと?」 「……駄目ですか?」 「い、いや、かまわないよ、うん」 「ありがとうございます」 クラウディアのかけている眼鏡が、なんとなく二人の間の壁になっているような気がして、フェイトは少し不愉快に思った。彼女はそのまま両手でそと眼鏡を外し、クラウディアの机の上に「転移」させた。 素顔の彼女は、頬を上気させていて、そしてその蒼い瞳がすっと吸い込まれるように澄んでいて綺麗だとフェイトは感じた。彼女の瞳に映る自分の顔も、きっと頬が上気していて、そしてその瞳を綺麗だと思ってくれると嬉しい。そう思った少女は、自分の鼻先を彼女の鼻先にすりつけ、また彼女の匂いをかいだ。今度は、少し汗の匂いが混じっている。 その汗の匂いが自分のものか、彼女のものか判らず、フェイトはクラウディアの身体に両腕を回し、鼻先を彼女のほほにあてた。 「……………」 「汗の匂いがします」 ほほから首筋に鼻先を移動させ、そして互いの身体を密着させる。とくとくと早くなってゆく心臓の音はどちらのものか。 「あ、あのさ」 「はい」 「ええと、すごい言いにくいことなんだけれど……」 「はい」 「膝に、当たってる。その、固いのが」 「?」 ほほが熱いくらいになってしまっているクラウディアが、かすれがちな声でそう言ってきたとき、フェイトはその言葉の意味が理解できていなかった。 しばらくその言葉の意味を考え、そして、自分が双性者で、そのもう一つの男性としての自分も上気していることに気がつく。 「問題なのですか?」 「……ええとさ、さすがに嫁入り前の身としては、ちょっと刺激が強すぎるというか、いや、フェイトのことが嫌だとかそういうんじゃなくて、つまり、乙女として恥ずかしいというか……」 「つまり、問題なのですね」 「……うん……」 問題があるというのならば、仕方がない。これ以上クラウディアをもふもふできないのは、本当に、真に、心の底から残念であるが、しかし、今は諦めるしかない。 フェイトは、心惹かれる思いの辛さを必死になって我慢しつつ、ゆっくりと自分の身体を引き離した。 目の前のクラウディアは、顔は真っ赤に茹で上がっていて、そして今すぐにも崩れ落ちそうなくらいに脱力している。自分も体温が上がり、心臓の鼓動がいつになく早くなってしまっていて、このまま同じ寝台にいる事がいたたまれなくなる。 いう事をきかない身体を無理矢理動かして、寝台から降りて靴をはいたフェイトは、クラウディアの顔をじっと覗き込んだ。 「……また、もふもふしてもよいですか?」 「……毎日、とかじゃなければ、いいよ、うん」 なんとか自分を取り戻したクラウディアは、何度かまばたきをしてから、フェイトの瞳を見つめ返しつつそう答えた。 フェイトは、何故に皆が自分のことを抱きしめ、もふもふしたがるのかが理解できた。次の機会には、抱きしめるだけではなく撫でてみよう。そういう欲求が心のうちに湧いてきて、その事実に新鮮な驚きを感じる。そして、きっとそれはとても気持ちがよいことに違いない、そうも思った。 フェイトは、新たに知った感情の動きに軽い驚きと、大きな満足を感じ、そのまま寝巻きに着替えて自分の寝台にもぐりこんだ。 そんなフェイトが寝息を立てるまで待ってから、クラウディアはのろのろと身体を起こし、自分も着替えて寝台に転がった。 次の日の朝には、二人とも普段の通りに戻った様子になっていた。正確には、何も無かったかのように振舞うことで、二人の間に生まれた微妙な雰囲気を無視することにしたのであるが。ただ、その事実を理解していたのはクラウディアだけであって、フェイトは本当に普段どおりに振舞っていたのであったが。 そんな二人が食堂へと向かう途中、同じように食堂に向かう無名と一緒になった。 「よう」 「おはよう」 「お早うございます」 「……?」 互いに挨拶を交わしたところで、無名が足を止めていぶかしげな表情になる。 フェイトは、そういえば無名にも親愛の情を示さないといけない、と、突如そういう思考が発生していた。クラウディアに親愛の情を示したのである以上、無名にも同じ様に振舞うべき、と、そう考えたのだ。 「無名さん」 「ああ?」 「もふもふしてもよいですか?」 「!?」 フェイトの突然の言葉に、無名は、驚愕に目を見開いてわずかに口をあけた。そして、何度も視線をクラウディアとフェイトの間をいったりきたりさせ、最後にクラウディアのことをにらみつけた。 「お前、フェイトに何をした?」 「……わたしじゃないよ。ううん、正確には、皆にされていることを自分でもしてみたくなったんだ、フェイトは」 「臭い、混じっているぜ」 すっと目を細めて殺気だった無名を、フェイトは、そっと近づいてからその両頬を両手ではさんで自分の方に顔を向けさせた。 「もふもふしていいですか?」 「……お前」 「いいですか?」 じっとフェイトに瞳をのぞきこまれ続け、無名は、まとっていた殺気を消し軽く頬を上気させて呟いた。 「好きにしろよ」 食堂へと向かう女生徒らの注視の中、存分に無名をもふもふしたフェイトは、何かすっきりした憑き物が落ちたような表情で食事をとりに歩き去った。 残された無名は、顔を真っ赤にし、腰が砕けたのが廊下にへたりこんだまま、軽く口をぱくぱくと動かしている。クラウディアは、そんな無名のことを抱き起こすように立たせると、肩を貸し抱きかかえるようにして食堂へと向かった。 「……なあ、クラウディア」 「なに?」 「俺もお前の事をもふもふしていいか?」 「……人目につかないところでなら」 「お前、本当にいい奴だよな」 「そんなんじゃないよ」
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autolink NA/W12-009 カード名:中学三年生のフェイト カテゴリ:キャラクター 色:黄 レベル:0 コスト:0 トリガー:0 パワー:1000 ソウル:1 特徴:《魔法》?・《クローン》? 【自】絆/「祝福するなのは」[あなたの山札の上から1枚をクロック置場に置く](このカードがプレイされて舞台に置かれた時、あなたはコストを払ってよい。そうしたら、あなたは自分の控え室の「祝福するなのは」を1枚選び、手札に戻す) ありがとうございます・・・・・・母さん レアリティ:U illust.篤見唯子 祝福するなのはの純絆持ち。 祝福するなのはは1/0のバニラと扱いやすく、 このカード自体も「フェイト」?であるため使い魔アルフの支援を受ければ相打ちぐらいならば戦える。 ただし、このカードが黄なのに対し祝福するなのはは赤と色が合わない。 一応レベル0であるため他色に混ぜられるとはいえ、1/0バニラのためにそこまでやるかは難しい所。 ・関連カード カード名 レベル/コスト スペック 色 備考 祝福するなのは 1/0 5500/1/0 赤 絆 ・関連ページ 「フェイト」?
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サウル・カダフ元帥率いる帝國軍が、ポルタヴァの町の前面から撤退してゆくゴーラ・ラグナル連合軍を徹底的に追撃し痛打を与えて敗走させた次の日、帝國軍は部隊を再集結させ全面的な休養と再編成に入った。会戦の前に第12軍団はナルヴァの戦いで連合軍を相手に戦い、少なくない損害を受けていたし、第7軍団もこの戦いで軍団長をはじめとして多くの死傷者を出していた。これからラグナル王国の王都フューリンを攻略するためには、それ相応の態勢をとれるようにしなくてはならなかった。 そんなこんなサウル・カダフ元帥の司令部がめったやたらに忙しい中フェイトは、文字通りする事もなく待機を命ぜられていた。何しろ彼女は、第21旅団から派遣されてきた文字通りサウル・カダフ元帥直属の身である。当の総司令官に「じゃ、呼ぶまで待機していて」と命ぜられれば、大人しくしているしかない身である。そしてくそ忙しい司令部で一人茶をすすっているのも気が引ける。結局のところ彼女は、総司令部が置かれている農家の外でぼんやりと周囲を眺めて時間を潰すしかやる事がなかったのだ。 だかだかと蹄の音も高らかに次から次へと伝令が馬で乗りつけるのを見ていたフェイトは、その中の一騎に見覚えのある姿を見つけて手を振った。 「フェイト!?」 「無事だったんだ、シャルル。よかった」 「元気そうだね。いつからこっちに?」 「10日くらい前かな? 国境を越える直前に来たんだ」 「そうなんだ。あ、ちょっと待っててね、報告書を出しに来たから、先にそっちを片付けなくちゃ」 「うん」 蜂蜜色に近い温かな色合いの金髪をした少年が、ぱあっと嬉しそうな表情を浮かべて馬か降りてフェイトに駆け寄ってくる。彼女がシャルルと呼んだ少年は、にこにこと嬉しそうに笑うと、髪の根元を三つ編みにしてリボンでまとめた金髪をひるがえし、農家に走って入っていった。久しぶりに会った知己に微笑みを浮かべたフェイトは、彼が置いていった馬を馬匹係りの兵士に手綱をあずけて入り口で待つことにした。 「ディアキニウス達の怪我はどう?」 「イサクリウスの顔に傷が残るくらい。軍務にはちゃんと復帰できるって」 「そう。よかったね」 「シャルルは?」 「見ての通り。ボクはちょっと怪我したくらいで、全然平気」 「よかった」 フェイトの所属している親衛第21旅団は、独立近衛第101重駆逐大隊、独立近衛第902重駆逐大隊、親衛第3騎馬猟兵連隊などで編成される重駆逐機装甲こと機神を主力とする魔導戦専門部隊である。今回のゴーラ帝国との戦争が始まる直前に第902大隊は、サウル・カダフ元帥直属として騎馬猟兵中隊2個とともに引き抜かれていた。同じ宿舎で暮らしていた歳若い仲間達の消息については、時々旅団司令部から聞こえてくる噂を聞くくらいしか知るすべがなかった。 「ゲッツ隊長に感状と勲章が出るかも」 「ふうん、総司令部にいるとそういう話も聞けるんだ」 「うん」 この戦争が起こる前、シャルルやその仲間達との間で起きたちょっとした騒ぎも、今では懐かしい記憶の一つでしかない。クラウディアのいない間、学院での生活によって喚起された感情を統べる事ができなくて、皆に迷惑をかけた。その間、フェイトの荒れ狂う感情を受け止めてくれていたのが、このシャルル・オーギュスト・デュ・ノワールという双性者であった。結果として彼女は、彼に自分の身を自由にさせ、色々な事を仕込まれたわけであるが。さすが「神殿」諸国出身の古人だけあって、シャルルは色々とフェイトの知らない後ろ昏い知識をたくさん持っていたのだ。 「ガリルとアイデシアは?」 「アイデシアはいつも通り。ガリルは……」 第902大隊長であるゲッツ・フォン・ベルリッヒンゲン上級騎士隊長直属の小隊員であるアイデシア・ケイロニウス・イリュリアは、現イリュリア公爵の妹姫であり、家督相続権を放棄して近衛騎士団に入団した少女である。かくあるべき自分というものをかたくななまでに護ろうとしていた彼女が、ゲッツ隊長にびんたを張られたのを見て、皆が驚愕していた事をフェイトは覚えている。皆の狼狽具合から、ケイロニウスの姫に手を出すという事が「帝國」でどれほど重大な事件なのかを知って、ノイナやアルブロシアといったケイロニウス一門出身の同期の娘らと散々もふもふしあった自分はどうなるのだろう、と困惑したのも今では懐かしい。 そして、東方はエドキナ大公領から来た魔族大夫の少年ガリル。戦場経験でははるかに上の魔族の戦士マリエルが怖がったほどの相手、というのとは裏腹に、見た目はマニッシュな少女にしか見えない、はにかみ屋で機装甲が大好きな線の細い少年であった。だが一度得物である両刃の大剣を持てば、まさに魔族大夫の称号に恥じぬ戦いぶりをみせる戦士でもある。本人はその落差にまったく無自覚であったのだけれども。 「ガリルは?」 「殺気立ってる。おかげで、アスランやニコラが怖がっていて、アイデシアはいつも通りなんだけれど、あんまり雰囲気が良くない」 ちょっと困ったなあ、という風に微笑んだシャルルに、フェイトは、何度かまばたきをして内心の驚きを感情として表現した。 フェイトの知るガリルは、学問にも、勤務にも、訓練にも、修行にも、ひたむきなまでに一生懸命で、そして今を生きる事を皆の中で一番楽しんでいた。仲間と勉強できるのが楽しい。仲間と訓練できるのが楽しい。機装甲鍛冶としての修行ができるのが楽しい。そうひとつ毛布の中ではにかみながら語った彼は、彼女から見てもとてもまぶしかった。その彼が殺気立っているというのは、ちょっと想像することができない。 「隊長達は?」 「それどころじゃない、って感じかな。ヴェストラ将軍とその麾下の将軍達を倒せなかったのと、大隊の「黒の二」を4機も撃破されたので、大変な事になってる」 「うん、見てた。戦死者が出なくてよかった」 「……見てたんだ。フェイトがいてくれれば…… ごめん、言っちゃいけないよね」 「助けにゆきたかった。それだけは信じて」 「うん、ボクは信じるよ。でも、戦争って、そういうものだから」 その長い睫毛を伏せたフェイトに、シャルルは、相変わらずののほほんとした声色でなぐさめるようにそう答えた。 そう、フェイトもあのヴェストラ大将軍の突撃を見ていたのだ。第5018小隊の黒騎士達が壊滅し、第902大隊の黒の二が次々と撃破されてゆくのを見て、何度もサウル・カダフ元帥の方を振り返った。それ以上の事は許されないのは理解していたが、泣きそうな表情の自分の視線を完全に無視して指揮を取り続ける総司令官の事をうらめしく思ったのも事実である。 そして、第902大隊を、第26旅団をすり潰す事で、帝國軍はポルタヴァの戦いに勝利したのだ。第15旅団を追い上げ、第26旅団を蹴散らし、第7軍団長直属の部隊を追い込む事で、ヴェストラ将軍の軍団は消耗し、そして第9、第10機甲騎兵旅団による突撃を受けて壊走させられたのだ。いまや彼らは4000かそこらの兵しか残っていないらしい。渡海したのが1万を超える軍団であった事を思えば、まさしく痛打を与えたといって過言ではない。これから彼らを、1万5000からの兵を持つ第8軍団が追撃する事になっている。王都フューリンにたどり着く前に敵が壊滅していてもおかしくはない。 「101の皆は?」 「元気。無名が獲物がいない、って文句言ってる」 「おぬこさまだからなあ、無名って」 「そうだね」 そう言って、二人でくすくすと笑い合う。この戦争が始まってから無名は、機神「クルル=カリル」を駆って敵の戦列艦を沈めるがもっぱらの任務だった。射撃戦は全くできないが、しかし存在の死を顕現させられる「魔眼」持ちで、常軌を逸した空中機動で砲撃すら避けきれる彼女は、数十門もの大砲を載せた戦艦を沈めるくらいしかやれる事がなかったのだ。 第101大隊長のナタリアは、無名かフェイトか、「クルル=カリル」で確実に機神を殺せる二人のどちらかを常に手元に置くようにしている。暴虐でもって知られるゴルム帝が皇帝乗座機神「グイン・ハイファール」で出撃した時のために、二人は拘置されているのである。 「そろそろゆかなくちゃ。もっと話をしていたいけど、ボクも任務があるから」 「うん。無事でね、シャルル。皆に無事でいてくれて嬉しいって、伝えて」 「うん。フェイトもね。ボク達もなんとか頑張ってるって」 他の兵士らの前でもあったし、軍務の最中でもあるから、互いに触れ合うようなことはせずに笑顔で別れる。 馬に拍車を当てて駆け去るシャルルを、フェイトをずっと見つめ続けていた。 朝と昼にたっぷりの肉と野菜を食べ、さらに特配の酒で身体を温めた帝國軍の兵士達は、勝利の余韻も醒めやらぬうちに王都フューリンへの進撃に移った。各軍団ごとに別れてそれぞれ街道を北上し、一路フューリンを目指す。途中でゴーラ・ラグナル軍とはちあわせしたならば、単独で蹴散らせるならば蹴散らし、それが無理ならば他の軍団に応援を要請して三方から包囲して殲滅する。 ゴーラ・ラグナル連合軍は、帝國軍と会敵するのを避け、急ぎ王都を目指すだろう、というのが総司令部の一致した意見であった。フューリンにはまだ1個軍団程度の兵が残っており、これと合流できるならば、ゴーラ帝国本土からの増援を待って反撃に出る事が可能であろう、というのが結論であった。 「ここでこちらがへまをしなければ、ゴーラ本土の増援はラグナルに投入せざるを得なくなる。重要なのは、スヴェルスガルド将軍の時のように、ヴェストラ軍が本土に逃げ出す余地を与えない事やね。ヴェストラ将軍の本隊が南岸に残っている限り、ゴーラ帝国は増援を送り出さざるを得ないわけだ」 「はい、閣下」 「その中に「グイン・ハイファール」いるかどうかは判らん。が、いたら、その時がお前さんの出番だ。フェイト上騎」 「はい」 ぱかぱかと馬に揺られて帝國軍工兵が応急補修した街道を北上するサウル・カダフ元帥は、毛皮で裏打ちされたケープ付きコートにマフラーをぐるぐる巻きにして、耳当てを下ろした毛皮帽をかぶっている。はるか南の海を越えた向こうの大陸出身の彼には、この北国の寒さはことのほか堪えるらしい。魔導八相に覚醒しているフェイトは、自分の周囲の気温の操作など無意識のうちに行える程度の事に過ぎないが、それはあくまで魔導の導師である彼女だからであって、一般の兵士にとって寒さとは命に関わる問題なのであった。 「で、だ。何か言いたそうやね? ここだけの話という事で聞き流してあげよう」 「はい、ありがとうございます。ですが、自分のわがままですので申し上げるわけには」 「構わん、構わん。ヴェストラ、討ちたかったんだろう?」 「……はい」 何もかもお見通し、と言わんばかりの獣人の元帥の視線に、フェイトは、少し間を空けてから口を開いた。 「今夜の待機ですが、第902大隊でとりたいのです」 「うん、了解した。どうせ大隊本部は司令部の近くだからね。本来ならば大隊長を呼んで全般状況の説明をするところだが、文章通達でやるからそれを持っていって貰おうか。ついでに向こうで寝てきていいよ」 「よろしいのですか?」 「第8軍団の前衛がヴェストラ軍の後衛に接触した。今902長は第10旅団に随行して威力偵察に出ている。大隊は機体の半分を討たれて再編成に手間取っているからね、先任士官に来いというのも酷だろうさ」 「ありがとうございます」 馬上ながら、軍帽を脱いで深く腰を折ったフェイトの事をサウル・カダフは、うんうんとうなずきながら見ている。 フェイトは、何故サウル・カダフ元帥が自分をこうも甘やかすのだろうかと、答えの出ない疑問について考えていた。 「来たよ」 「ひぇ?」 あり得ない物を見た、という表情で声を上げたシャルルに目礼だけして、フェイトは902大隊の先任士官の前に立って敬礼した。 「第901大隊長に対し、総司令部より全般状況概略についての説明と今後の活動についての指針の通達についての文章をお持ちいたしました。受領願います」 「了解した。署名はここだな。……よろしい、大隊長に代わり、先任士官が受領した」 「はい、確認いたしました。……お久しぶりです、ヒュド隊長」 「君とは久しぶりね。それで、今日は他には?」 「これだけです。あと、総司令官の許可を頂けましたので、今日はこちらに泊まらさせて頂いてもよろしいでしょうか?」 すでに夜闇のとばりも下りている刻、第902大隊の本部が置かれている農家の中でフェイトは、第902大隊先任士官のヒュド騎士隊長に総司令部から預かってきた文章を手渡した。 眉とあごのあたりで切りそろえた黒髪と薄い身体つきのせいで、ここにいる騎士達の中では一番幼く見えるヒュド騎士隊長であったが、ここにいる騎士達の中では最も長い軍歴と戦功を持っている古参の黒騎士でもある。彼女よりも戦功で上回るゲッツ大隊長は、部屋の隅っこで昏い顔をしている騎士アスランの上長であるアモニス騎士長とともに、第10機甲騎兵旅団に随行していてここにはいない。 紙巻をくわえて火をつけたヒュド騎士隊長は、そのほとんど瞬きをしない硝子のような瞳でフェイトの事を見つめ返した。 「君が「クルル=カリル」と共に総司令部予備として拘置されている事は、旅団司令部から聞いている。ここは君がいるべき場所じゃない。で、なんで君がここにいるのかな?」 「ガリルをお借りしていってもよろしいでしょうか?」 「……許可する。ただしシャルルは駄目だ。これから話をしなくちゃいけないからね」 「了解しました」 そんなあ、と泣きそうな表情でフェイトに助けを求めるシャルルを、頑張って、と笑って一声かけてやり過ごしたフェイトは、壁に背をあずけて大剣を抱えて座っているガリルの前に立った。 癖の強いこげ茶色の髪を伸ばして頭の両脇に生えている角を隠している彼は、普段とは一変して殺気にその翠色の瞳ぎらぎらと輝かせながら、じっと黙って今のやり取りを見ていた。 ヒュド騎士隊長はフェイトの記憶通り抜き身の長刀のような雰囲気を隠そうともしていないし、普段は穏やかなガリルが周囲にうっすらと殺気を漂わしたまま黙りこくっている。アイデシアは相変わらず我関せずで自分の世界に入っていて、ガリルと同じ小隊のニコラは困った様子で黙っていて、そしてアスランは昏い雰囲気のまま部屋の隅っこで落ち込んでいる。確かにこの雰囲気では、次の戦いではあまり楽しくない事になりそうではある。 「ガリル、ファルコニア小隊長は?」 「即応待機中です。フェイト上級騎士」 「判った。じゃ、毛布持ってきて。私とあなたの分と」 「……了解しました」 不愉快そうな表情を隠そうともせずに立ち上がったガリルは、それでも文句の付けようのない敬礼をしてから靴音も高く部屋を出て行った。 「サウル・カダフ元帥は、大隊の現状を知っているのかな?」 「ご存知ないはずですが、予想はしているのではないでしょうか」 「君は表情を隠す事を覚えるべきだ。指揮官は、喜怒哀楽を他人の前で顕わにするべきじゃあない」 「努力します」 ふうっと煙を吐いたヒュド騎士隊長は、相変わらず硝子のような表情の読めない瞳でそうフェイトの事を叱った。 毛布を持ってきたガリルを納屋まで引っ張ってきたフェイトは、自分の分の毛布を藁山の上に敷くと、もう一枚の毛布の中にガリルを引っ張り込んだ。 「ガリルが怒っているの、初めて見た」 「……………」 「あのね、今日はそういう事をしに来たわけじゃないんだ。ただ……」 「ただ?」 「今のままだと、誰か死ぬよ。きっと」 むっつりとした表情のガリルは、一度はっとしたような表情を浮かべ、それからきっとフェイトの事をにらみつけた。 「ファルコニア隊長とディアキニウスがいなくて、君がそんなだと、黒騎士以外のみんな、実力を出し切れないよ」 「……自分は」 「うん」 「自分が出撃していれば、三人が死にかけるような事はありませんでした」 「うん」 それだけ口にするとガリルは、毛布の中でフェイトに背を向けた。そんな少年を背中からそっと抱きしめると彼女は、あくまで優しく言葉を続けた。 「それを口にして、怒られたんだ」 「……はい」 「私ね、見ていたんだ。大隊が壊滅しかけるところ」 「……………」 フェイトの腕の中で、ガリルがびくっと身体を震わせる。 「ヴェストラ将軍は、私が予想したよりもはるかに強かったよ。最初の黒騎士の弓射で、ゲッツ隊長の仕掛けで、討てるはずと思った。でも、それをことごとく斬り伏せて戦場から離脱した」 「……………」 「あれを討てるのは、今この戦場ではナタリアか、無名か、私だけだよ」 「何故、そう言い切れるんです」 「私なら、ヴェストラ将軍の無数の可能性の中から致命的なものを観測し顕現させられる。無名なら、相手が生きている限り「殺す」ことができる。そして、私はナタリアの本気の砲撃を見た事がなくて、「死神」と呼ばれたあの人の本気を機神に乗らないで斬れる人間がいるとは、思えない」 ぎゅっと力をこめてガリルを抱きしめたフェイトは、そう優しく彼の耳元でささやいた。 「自分は」 「うん」 「自分は、大夫だそうです。「自治区」が成立する前の称号だから、実感が無いんですけど。だから、皆から誉めそやされても、困るんです。みんな、自分を防衛第一委員の嫡子だから、近衛騎士卿だから、期待して、褒めて、おだてるんです。でも、自分は、皆に言われるような結果を出していないんです」 「そうだね」 「自分は何かしましたか? 何もしていないじゃないですか。ポルタヴァでの戦いだって、ヒュド隊長が待機だから、部下の自分も待機させられて、それでディアキニウスもイサクリウスもコルネリアも死にかけて、自分は一体全体なんなんです? 何もできなかったじゃないですか!」 肩を震わせて、静かにそう激昂するガリルが愛おしくて、フェイトは、ずっと彼を抱きしめ続けていた。 「悔しいよね」 「悔しいです」 「でも、私はガリルの事がうらやましいんだよ」 「え?」 困惑したようなガリルの声に、フェイトはガリルの身体をひっくり返して自分の方に向きなおさせた。 「サウル・カダフ元帥は、「クルル=カリル」をヴェストラ軍を叩くために投入する気が無い。ポルタヴァでね、私は何度も総司令官の事を見つめたんだ。私ならヴェストラ将軍を討てるって。でも、あの人はそれを無視して、敵を完全に包囲して殲滅する方を選んだ」 結局、ヴェストラ将軍らには逃げられたけどね。 そう言ってフェイトは、自分の鼻先をガリルの鼻先にこすりつけた。 「101がこの戦争で果たしている役割は理解している。でも、今こうして何もせず総司令部の隅っこでお茶を飲んでいるだけなんて、私だって納得できない」 「……本当に、何もさせて貰えないんですか?」 「うん。時々、サウル・カダフ元帥のお茶の相手をするだけ」 フェイトは、ガリルを抱きしめる腕に力をこめ、彼の頬に頬ずりする。 「でも、ガリルは、ヴェストラ将軍と麾下の将軍達が無事だから、戦う機会は残っている。今、ゲッツ隊長がアモニス隊長と一緒に出撃しているのって、ヴェストラ将軍との再戦するつもりだからだよね?」 「はい」 「でも、それは無理だと思う。今、ゴーラ軍と帝國軍は、どっちが先にフューリンに到着するか競争している。だから、ヴェストラ軍はゲッツ隊長の事を無視して北上しているはず」 「じゃあ、本番は、フューリンにたどり着いてからですか?」 「総司令部は、そのつもりで準備を始めているよ」 「……なんでヒュド隊長じゃなくて、自分に?」 「さっき渡した文書、きっとそういう内容のはずだから」 「……………」 ガリルの髪の毛は癖が強い。そして限りなく黒に近いこげ茶色の角を隠すために伸ばしているせいもあって、手触りがもふもふしていて撫でているととても気持ちが良い。フェイトは、ガリルの髪の毛をすくようにして撫で、そして彼の艶やかな角に優しく触れた。 正直に言うならば、フェイトはガリルの角がうらやましい。自分の角は人間の国である「帝國」で生きてゆくために切り落としてしまったから。角を切り落とすということが、魔族にとってどれほどの恥辱であるのか、それはマリエルから聞いた。だから、今更再生するつもりもない。彼女とてプライドがある。今更蔑まれたり哀れまれたりしたいとは思わない。角を再生するということは、自分に向けられるそうした視線を肯定する事にほかならない。 だからフェイトは、自分が角を切り落としたダイモン――上級魔族――であっても、蔑みも哀れみもしなかったガリルに好意を抱いている。彼は、自分がダイモンである以前に、帝國市民であるという意識が強く、そしてその事に限りない誇りを抱いている新世代の魔族であった。 同じダイモンの先輩がいると知って喜んだ彼の満面の笑みをフェイトは覚えている。彼に自覚は無いだろうが、フェイトが本当の意味で喜怒哀楽の感情を意識したのは、彼のおかげなのだ。 「フェイトさん」 「うん」 「自分は、貴女の事が好きです」 「私もだよ、ガリル」 ガリルの手がフェイトの背中に回され、ぎゅっと力強く抱きしめ返してくる。 「アルブロシア先輩の事があった後、皆、自分の事を哀れんだり嘲ったりしました。魔族のくせにケイロニウス御一門の姫君に恋をするなんて、身の程をわきまえぬ僭越だと」 「確かにそういうこともあったね」 ガリルの初恋の相手は、フェイトと「学院」で同期であったケイロニウス・アクィロニア方伯アルブロシアという少女であった。歳若くして家督を継ぎ、そして今上皇帝リランディアの義理の娘として南のアル・レクサ王国に嫁いでいった彼女。その時にガリルに向けられた感情を、フェイトはよく覚えている。非征服民の子が、皇室御一門の姫君と相思相愛になったという醜聞扱い。恋をした二人の間に肉体的接触があったとは聞いていない。だからこそ、その時の彼の慟哭の深さを彼女は覚えている。 それは、セルウィトス・セルトリウス西方辺境候嫡子クラウディアに恋をしている自分と同じ慟哭であるから。 幸いにして自分は、クラウディアの恋人である事を彼女の夫のオクセンシュルヌス・トゥルトニウス北方辺境候に許されている。だからといって、公的な場にフェイトがクラウディアに伴われて出る事が許されたわけではない。あくまで好意によって黙認されているだけの関係。 自分は生涯表の世界に出る事は許されない。それが「帝國」における彼女の立場であり、彼女もそれを了承して角を落としここに来た。 「自分の気持ちを判ってくれるのは、フェイトさんだけです」 「うん」 「自分には好きな人がたくさんいます。大切な人がたくさんいます。でも、自分の気持ちを判ってくれるのは、フェイトさんだけです」 「うん」 「……貴女に、角が残っていたなら」 ガリルの指先が、フェイトの角のあった場所に触れる。今はもうそこで髪をまとめるのをやめてしまった箇所に触れる事を彼女が許す相手は、彼の他に数人もいない。自分の金髪が乱れぬよう先端をリボンでまとめた長髪の上から少年が彼女をかき抱き慟哭する様を、フェイトはその胸の中で感じとった。 「自分は、どうして許されない相手に恋をしてしまうんでしょうか?」 「私にも、判らないよ」 「そうですよね。……ごめんなさい。言ってはいけない事を言っちゃいました」 「ガリルにだけは許すよ。私に角が残っていたならば、きっと私は表の世界でも生きてゆけたはずだから。きっと、私達の事を皆が祝福してくれたはずだから」 フェイトが後悔しているのは、ただその一点のみである。どれほど慟哭しようと、自ら角を落とした事を後悔などしていなかった。だが、同じダイモンでありながら、自分と同じ様に古い魔族の因習から自由な彼との恋は、クラウディアとの恋と同じくらいに心地良かった。 だが、彼女は角を落としてしまった。故に、彼の故郷の者達に受け入れられる事はない。 「悔しいよね」 「でも、自分は、諦めません。諦めたら、そこで終わりですから」 「うん。ガリルは、強いね」 フェイトは、ガリルが羨ましい。諦めてしまって、そしてそれを是としている自分と、なお諦めずに進もうとしている彼を比べてしまうから。 「……フェイトさんが諦めるのを止めるまで、自分は貴女と一緒にいます」 「……私には、無理だよ」 「貴女が諦めるのを止めるまで、貴女を離しません」 フェイトは、ガリルが眩しい。日陰で生きる事を選んでしまった自分には、表の世界で顔を上げ胸を張って生きてゆく彼が輝かしいから。 「自分は、貴女の手を離しません。二度と後悔するつもりはありません」 フェイトはガリルに抗えない。フェイトの強さなど、所詮は魔導という技術に頼るだけのもの。ガリルの自由への意思の強さに比べれば、そんなものなど何物であろうか。 彼女の両手に自分の指を絡めて組み伏せたガリルに、フェイトは身も心も蕩けて、彼の思うがままに蹂躙される悦びに肢体をゆだねた。 「ええと、昨日は、その……」 「気にしなくていいよ。ガリルが普段通りに戻ってくれて嬉しいから」 「す、すみません」 翌朝、日の出頃に目が覚めた二人は、身だしなみを整えた後、藁山の上に敷かれた毛布の上で互いに向かい合って座り込んでいた。フェイトは下半身が蕩けて力が入らなかったせいであるし、ガリルは自分がしでかした事に身の置き所がなかったせいである。 「でも、嬉しいよ。好きって気持ちは。気持ちいいから」 「……はい」 フェイトは、身も心も蕩けきった自分に活を入れて、軍人としての自身に戻った。本当は、顔を真っ赤にして上目遣いで見つめてくるガリルの姿をずっと堪能していたい。だが今は、数十万の兵士が動員されている大戦争の真っ最中であり、今日もまた状況が動くかもしれない。その時に、ガリルは「黒の二」を駆って戦場に出られる状態でいなくてはならないし、フェイトはサウル・カダフ元帥の命令を遂行できる態勢でいなくてはならない。 「ねえ、ガリル」 「はい、フェイトさん」 「いつか、いつか本当の勇気を私が手に入れる事ができたならば」 「判っています」 少年の翠色の瞳の力強さが嬉しい。フェイトの想い人は、その瞳の力強さで彼女を組みしだく。そして、その事が彼女にとっては何よりも心地良い。 今の自分は弱い。それがフェイトの自分自身の評価である。だからこそ想う。強くなった自分を見つめる瞳はどうなるのだろうか、と。そして、強くなった自分を見つめる瞳は、それでも自分を組みしだいてくれるのか、と。 ガリルと出会わなければ、フェイトはいつまでもクラウディアの優しさの中でまどろんでいたであろう。だが今は違う。彼女の中には、強さへの渇望が在る。いつか、諦める事を止め、歩き出せるようになる事を望む自分が生まれつつある。そのもう一人の自分を生み出したのは、彼の瞳の力強さ。 「私は、強くなるよ」 「自分も、強くなります」 だから、フェイトとガリルは互いに確認しあう。同じ自由になろうとするダイモンだからこそ、理解できる本能的な力への渇望。 少年と少女は、共に自由という荒野を目指す。